考えろ。考えなきゃ。なんとしても、守りたいんだから。
 ううん。この子は絶対に、私が守ってみせる。
 だって――。

「わたしが一緒にあげまんじゅう食べたのは、この子なの……っ!」

 刹那。リン、と軽やかな音がした。
 引かれるようにして視線を下げる。と、スマホと共にポケットに入っていたはずの鈴が飛び出ていて、駆ける振動に合わせて跳ねている。
 それだけじゃない。

「光って――?」

 はっと脳裏に思考が弾ける。
 "念"はヒトの陰の気。壱袈はそう言っていた。だから同じ"陰"である自分は、祓えずに散らすのだと。
 いつだかの雅弥とカグラちゃんの言葉が駆け抜ける。
 ――この鈴には、お祖母ちゃんの"護り"の気が込められている。

「……っ!」

 イチかバチか。立ち止まりスマホをポケットから引き抜いた私は、鈴を掌に乗せ光を子狐ちゃんの鼻先に寄せた。
 そうだ。しかもこの鈴は、カグラちゃんの力を分けてもらった"護り"の子。
 神は陽。なら――!

「お願いっ! この子を守りたいの!」

 力を貸して……っ!
 そう、叫んだその時。

「なん、と……っ!?」

 壱袈の驚愕が轟く。
 私はというと、声も出せずにいた。
 鈴から発された淡い光。それは私の掌どころか全身を包みこみ、まるで"念"との間に薄い膜が出来たよう。

「こ、れは……?」

 やっとのことで、戸惑いを零した刹那。
 力なく伏せられていた耳がピクリと動き、子狐ちゃんの瞼がゆっくりと開かれた。

「子狐ちゃん……!」

 歓喜の声を上げる私に、子狐ちゃんが顔を起こしてキュウと鳴く。
 そのまま上体を起こそうと前足を踏ん張るも、まだ力が入らないのか、ずるりと滑り伏せてしまった。

「あ、まだ無理しちゃダメだって……!」

 キュウンと鳴くその声は、なんだか申し訳なさそう。
 けれども見上げる顔はすっかり元の様相で、先ほどまでの苦し気な姿は消え失せている。

「……っ、よか、ったあ……」

 安堵に力が抜け、私はぺたりと石畳に膝をついた。
 鼻の奥がツンと痛い。
 荒い息はまだ整わないし、弛緩するままこの場に倒れこんでしまいたい。
 けど。

「いやはや、これはこれは実に見事」

「……っ、壱袈!」