こくこくと頷いた私に、壱袈は手を口元にあててクックッと笑いながら、「そうかそうか」と店頭へ寄り、

「さて、どれにする? 俺はごまだな」

「私は……さくらかな」

 頷いた壱袈は「注文をいいか」と店員さんへと声をかけ、

「ごまとさくらを一つずつ頼む」

 ベスト裏から布財布を取り出して、紐をくるりと外した壱袈が五百円玉を青いトレーに乗せる。

「って、待って私ちゃんとお金持ってるから」

 スマホケースの内ポケットには、急に必要になったときを見越して折り畳んだ千円札を入れてある。
 慌ててそれを引き抜くと、

「あら!? あらあらまあまあ、こんな美男美女が目の前にいるのにさっぱり気づかないなんて!」

 店員さんは目を丸めながら頬を染め上げて、

「ほんとにどちらも綺麗ねえ。モデルさん? あ、握手してもらお! お代は一つ分でいいから、気に入ったらいっぱい宣伝してちょうだい!」

 はい、とトレーにお釣りを乗せて、白い紙に挟まれた揚げまんじゅうを「どうぞ! 熱いからね」と手渡される。
 恩に着る、と受け取った壱袈はひとつを私に渡して、

「そういうことだから、それはとっておけ」

「ええ……でも」

「散歩もそうだが、こうして誰かと共にこのまんじゅうを食すのは、随分と久しぶりでな。感謝を示すには、あまりに安すぎるが」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとね、壱袈」

 礼を告げて受け取ると、壱袈は「ありがとう、か」と苦笑を浮かべ、

「彩愛といると、自分があやかしであることを忘れそうになるな」

「え……?」

(それって、どういう……?)

「ほれ、冷めぬうちに味わってみるといい」

「あ、うん……」

 壱袈は自分の揚げまんじゅうをさくりと食んで、

「うむ、美味い。この薫り高いごまの風味と餡子の、実に合うことよ」

「…………」

 私も食べよう。
 まだ熱さの残る衣をふうと吹いて、ひとくち。
 サクリと破れた衣と、もちりとした生地。桜色をした白餡のまろやかな甘みと共に、ほのかな塩気が混ざり合う。

「お、おいし……っ! しかもこれ、一度桜の葉で巻いてから揚げてある……!」

 よくよくみたら、衣にも混ぜ込まれた桜の花が。

(この塩気は、塩漬けにされた桜だったのね……)

 それにしても、見れば見るほど餡子が本当に綺麗な薄ピンクで、うっとりしてしまう。