私の鈴ちゃんも、いずれこんな風に動いたりするのかなあ。
 ふよふよと宙に浮く鈴を想像しながら打掛を眺めていると、

「神ではなく、あやかしだがな」

「つくもあやかし……なんだが語呂悪くない?」

「くっく、なに。決まったくくりを持たぬモノだ。好きに呼んだら良い」

 と、背後から疲れたようなため息。

「アンタは……どうしてそう呑気なんだ」

「雅弥……。あ、大丈夫! ちゃんとバッチリ警戒してるから!」

「アンタの場合、警戒の度合いが浅すぎる。……これを連れていけ」

 刹那、すっと上がった雅弥の手の先から、ぴょいんと白い子狐が飛んできた。
 私の肩に降り立つと、筆先のような尻尾を左右に振る。

「え、あ、カワイイ!」

「少し黙っていろ。……いいな、壱袈」

 伺うというよりは脅しの気配が強い声で、雅弥は壱袈を睨め付ける。
 壱袈は「そうかそうか」と肩を竦めて、

「これ以上の"護り"は必要ないと見えるが……まあ、他ならぬ雅弥の頼みなら致し方ない」

 さして大きな問題ではないのか、壱袈は「さて」と話を切り上げ出入口へと歩を進めた。

「行くか、彩愛」

 扉前で足を止めた壱袈が、左ひじを軽く曲げ視線だけで促す。

(……そこに手を添えて、腕を組めってことね)

 私が了承したのは"散歩"であって、"同伴"ではないのだけど。
 思ったけど、言葉にするほど野暮じゃない。
 だってこれは、守れるか奪われるかの試練なのだから。
 私はすうと息を吸い込み、背を正す。

「……ごめんね、彩愛ちゃん」

 届いた呟きはカグラちゃんのもの。
 振り返れば、申し訳なさそうに視線を下げるカグラちゃん。
 その横で雅弥は瞳に心配を浮かべ、眉根に葛藤を刻んでいる。

(ほんとに、あったかいなあ。ここは)

 大切に、護られている。
 心の内から湧き上がるぽかぽかした感覚に、私は頬を綻ばせ、

「なんてことないわよ、こんなの」

 守られているだけじゃ性に合わない。
 私の大切な場所は、私が絶対に守ってみせる。

(……だから、どうか)

 背を向け、妖しげな陰影の際立つ待ち人へと歩み寄る。

「怖いか?」

「まさか」

 挑発気味に笑んだ私は、ありったけの決意と願いを込めて、右手を壱袈の左腕に預けた。

「――いってきます!」

 帰ってきたら、"おかえり"と。
 私の戻れる場所はここにあるんだって、迎え入れてほしいな。