「おぬしはめっぽう"華"に弱い」

「あんたと一緒にするな。俺は"祓い屋"として仕事をしているだけだ。落ち度はない」

「ああ、そうだ。おぬしの仕事に落ち度はない。だが、おぬしは変わった。俺は"契約者"として、今のおぬしが契約を結ぶに値する相手か、再度見極めなくてはならない」

 宥めるような声色で告げる壱袈に、雅弥は観念したのか、ぎゅっと目を閉じ不満を飲み込むと、

「……すきにしろ」

 くるりと背を向けて、いつもの席へと戻る雅弥。
 腰を落とし、大きくため息をついてから、

「……カグラ。茶を用意してやってくれ。それと、アンタは厨房に――」

「いや、茶は後ほど頂くとしよう」

「なに?」

 壱袈はゆるりと私を見遣って、

「俺が見極めるべきは、この華よ」

「へ? 私?」

「なっ……!」

 雅弥が驚愕に腰を浮かせる。
 カグラちゃんもすっと両目を細め、いつになく怖い顔で壱袈を睨んだ。
 けれども彼は飄々(ひょうひょう)と笑んで、

「なにをそう驚く? 道理にかなっているだろう。全ての起因は、この華なのだから」

「お前と"契約"を結んでいるのは俺だ。ソイツは関係ない」

「関係あるかないかは、俺が決めることだ」

「っ、ソイツは何も知らない。お前が見極めるべきモノなど――」

「雅弥」

 制したのは、カグラちゃんだ。
 私の視線を受けると、硬い頬をいつものように緩め、なんだか詫びるような苦笑を浮かべた。

「決めるのはボクたちじゃない」

「カグラっ……!」

「遅かれ早かれ、目を付けられるのはわかってたでしょ? それが、今だったってだけだよ」

 焦りの色を浮かべる雅弥には目もくれず、カグラちゃんは私を見つめたまま、

「巻き込んじゃって、ごめんね。けれど選んでもらわなきゃなんだ。アレの要求に付き合うか、それとも、"無関係"だと拒むか」

「わ、たしが、選んでいいの?」

 もちろん、と頷くカグラちゃん。
 雅弥は制したい気持ちを堪えているのか、渋い顔で唇を引き結んでいて、壱袈はこれまた一興とでも言いたげにニタニタと成り行きを見守っている。

(……さーて。どちらを選ぶのが得策かな)

 壱袈が私の何を見極めようとしているのか、具体的な部分は一切わからない。
 安易に頷き付き合って、自分でも気づかないままに"失敗"してしまえば、雅弥にも影響が出るのは明白。
 この場は"怖い"とヒトらしい理由を叩きつけて、自分は無関係だと逃げてしまったほうが、リスクも最小限に抑えられるんじゃあ。