「そーだよお。頑張り屋なお弟子ちゃんの晴れ舞台だもの! 今日は師匠のボクが頑張るから、お店のことはお休みして、ゆっくり楽しんで。彩愛ちゃんにお化粧のこととか聞きたいって言ってたでしょ?」

「カグラ様……それは……っ」

「そうなのお葉都ちゃん? いいわよ何でも聞いて! あ、私にも隠世のお化粧事情、教えてくれる?」

 お葉都ちゃんはぱあと顔に花を咲かせて、

「もちろんにございます……!」

「うんうん。ボクも後で混ざろーっと! それで、お葉都ちゃんはコーヒーがいい? 紅茶がいい?」

 尋ねるカグラちゃんに、「……ありがとうございます、カグラ様、渉様」とお葉都ちゃんは頭を下げてから、

「恐縮ながら、私もお紅茶をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「はいはーい! ぱぱっと準備してくるから、またいっぱいお喋りしよーねえ」

 ぱちりとウインクを飛ばしたカグラちゃんと渉さんが、靴を履き、厨房に向かおうと背を向けた。
 瞬間。

「わっ!?」

 声を上げたのは渉さんで、それは彼の隣で突如、ぽんっと白煙が上がったから。
 見ればカグラちゃんに、髪と同じ銀色の狐耳と尻尾が出現している。

「――どうした、カグラ」

 尋ねる雅弥の声に、微かな緊張。
 それもそのはず。カグラちゃんは先ほどから異変を察知した獣のように、廊下の先をじっと見つめていて、微動だにしない。

「カグラ」

 焦れたようにして、雅弥が低い声で重ねる。
 カグラちゃんは相も変わらず廊下の先を睨んだまま、

「――残念だけど、お祝いはいったん小休止だね」

 ピンと立つ銀の耳が、音を拾ったようにふるりと揺れた。
 透き通る金の眼が、不満を乗せてこちらに向く。

「歓迎したくない来訪者だ」

 いつもにはない剣呑さに躊躇した、その時。

「――相変わらず冷たいな、藤狐。ここは茶店であろうに」

 ゆるりと紡がれる、どこかわざとらしい落胆。
 その男の声を"ヒトではない"と直感的に悟ったとほぼ同時に、上り口に姿が現れた。
 肩の位置で結われた、ホワイトブロンドの髪。
 纏っているのは白いシャツに、黒いベストとズボンとスーツの洋服。
 けれども肩にひっかけるようにして、黒地に赤い柄がはいった着物を羽織っている。

「あいにく、今日は臨時休業だよ」腰に手をあて嫌そうに言うカグラちゃんに、
「なんと、それは間が悪い」口先だけで残念ぶる男。と、

「何の用だ――壱袈(いちか)