「なんか随分と主人感のある物言いね。私いま気分いいし、"ご主人様"って呼ぶ?」

「やめろ、虫唾が走る」

 ともかくだ。雅弥は目つきを鋭く細め、

「今回は目をつぶるが、あやかしにそうホイホイと現世のモノを渡すな」

「そっかあ……考えてみたら、いくら小袋があっても使う時には出さないといけないものね。私もお葉都ちゃんを危ない目に遭わせたくはないし……」

 今更ながら、迂闊(うかつ)なプレゼントをしちゃったのかも。

(どうしよ……、向こうに持って帰ってもらうんじゃなくて、『忘れ傘』に置いておいてもらうとか……?)

 カグラちゃん、と私が交渉のため口を開こうとした刹那。

「彩愛様」

 呼ぶお葉都ちゃんの声に、顔を向ける。
 彼女は両の瞳に慈愛を携えて、

「近頃の隠世では、現世のモノも多く目にするようになりました。それに、そもそも私自身がこちらとあちらを頻繁に往来しておりますし、ヒトの気配を理由に危害を加えようとするモノがいるのならば、それはこの紅《べに》を起因とするものではございません」

 優しい指先が、そっと私の手を包み込む。

「私の些細な言葉を覚えてくださったこと。こうして贈り物としてご用意くださったこと。私を気遣う彩愛様のお心すべてが大変にありがたく、これまでにない喜びを感じております。この(べに)は、後生大事にさせていただきます」

「お葉都ちゃん……」

 嘘のない、私を安心させようとする言葉が、包まれた掌からじんわりと沁みて、心中の迷いを打ち消していく。

(……お葉都ちゃんが、そう言ってくれるのなら)

「ありがとう、お葉都ちゃん」

 優しい彼女の、大人な心遣い。
 甘えさせてもらおうと決めた私に、お葉都ちゃんは「礼を告げるべきは私にございます。それに」とお揃いのローズピンクの唇を吊り上げ、

「こうして顔を得たものの、私は"のっぺらぼう"の一族にございます。それなりに腕が立ちますので、ご安心ください」

 一瞬で人の心を蕩けさせてしまいそうな香り立つ笑みで、お葉都ちゃんは自信満々に言い切る。
 見惚れていいのか、感心していいのか。

「そ、そうだったんだ……」

 半ば心あらずな状態で呟くと、カグラちゃんが「そうだねえ」と人差し指を頬に寄せて、

「ヒト型を保てるあやかしは、もともと妖力が高いからねえ。おまけに"化け術"を使うにしても、自身の妖力を結晶化するにしても、見合うだけの知識と力がなくっちゃ」

「妖力の結晶化?」