「その、ヒトのモノって、隠世に持っていくには色々と危ないんでしょう? 雅弥に隠世の小袋を用意してもらおうと思ったのだけど、お葉都ちゃんには必要ないって、バッサリ断られちゃって……」

 貴重なモノだから簡単にはやれない、とか。そうした理由すら教えてもらえずに、たった一言で却下だなんて。
 不満にじとりと奥に座る雅弥を見遣るも、我関せずと手にした本を追っている。
 と、お葉都ちゃんが思い当たったといった風にして、

「そういうことでございましたか」

「え?」

 疑問の目を向けた私に、お葉都ちゃんは目元を柔らかく緩めた。安心させるような眼差し。

「彩愛様。その点につきましては、ご心配には及びません」

 細くなだらかな指先が、帯の隙間から小紋柄の布を引き出す。
 小さく折り畳まれたそれが開かれると、その形状は――。

「お葉都ちゃん、それってもしかして……!」

「はい。隠世にて織られた小袋にございます」

 ど、どうしてそれを?
 訊ねかけて、私は咄嗟に口を噤んだ。
 お葉都ちゃんは隠世の住人なのだし、有事の際の小物入れとして、巾着を持ち歩いていてもおかしくはない。

「よかった、お葉都ちゃんが小袋を持っていてくれて」

 運が良かったと告げる私に、お葉都ちゃんはくすりと笑った。

「彩愛様。私がこの小袋を持っているのは、雅弥様のお陰にございますよ」

「雅弥のおかげ? え? どういうこと?」

(まさか雅弥、私がプレゼントを渡そうとしてるって、事前にお葉都ちゃんに伝えて……?)

 ――ううん、それはない。
 雅弥は私がサプライズで渡そうとしてるって知っていた。理由もなく計画を潰すような、無粋な真似はしない。
 それに、さっきのお葉都ちゃんの反応は、知っていた上での演技という風でもなかった。
 すると、ぷはっと噴き出す声がした。カグラちゃんだ。

「雅弥はねえ、不器用で回りくどいからねえ」

「……カグラ、聞こえているぞ」

「だって隠すつもりないもーん」

「雅弥様がお優しいのは、俺もよく存じ上げています!」

 食い気味に挙手する渉さんに、私はますます首をひねる。

(ん? ん? まって全然わからないんだけども?)

「……もしかして、雅弥。私には冷たいこと言いつつも、こっそり先に渡してくれてたなんてオシャレな技を……?」

「違う。……だいたいなんだその"技"というのは」

「じゃあ、どうして小袋があるの?」