畳に膝をついて鞄を開ける。直後、見つけた目的の小箱を手に、私は再びお葉都ちゃんの傍へ。

「これ、良かったら貰ってくれない?」

 受け取ったお葉都ちゃんは戸惑いがちに、白いリボンを引いて蓋を持ちあげた。
 その中から更に、黒く細長い小箱を取り出し、まだわからないといった風に上部の蓋を開けて傾ける。
 ストン、と掌に現れたのは、黒いボディに金の輝く――。

「……これはっ」

 驚く声に、私はにんまりと指先を自身の唇へ。

「そ、私が今ぬってるリップと同じ色の口紅! お葉都ちゃん、前にこの色が素敵だって言ってたでしょ? だから、念願の"顔"が完成したお祝いに、私からプレゼント」

「彩愛様……本当によろしいのですか? こんなに素晴らしい(べに)を、私めが頂いてしまって……」

「お葉都ちゃんの為に買ってきたんだもの。嫌でなければ、使って」

 お葉都ちゃんは「……ありがとうございます、彩愛様」と口紅を胸に抱きしめてから、

「……少々、鏡をお借りしてもよろしいでしょうか」

 もちろん! と即座に鞄からハンドミラーを取り出した私に礼を告げて、膝を折り、畳に座したお葉都ちゃん。
 伏せられた瞼。片手で開いた鏡を覗き込みながら、ゆっくりとなぞるようにして、滑る口紅が唇に色をさす。

「……いかがでしょうか」

 恥じるような問いかけに、私は力強く頷いて、

「さいっこーに似合ってる! お葉都ちゃんは、どう? テンション上がった?」

「とても、嬉しいです……。これまではいくら美しい(べに)を見つけても、飾る先がありませんでしたから……」

 お葉都ちゃんは「それに」と頬を染めて、

「なによりも、彩愛様と同じ唇を同じ色で染めれたことが、一番に嬉しゅうございます。先ほどから胸の高鳴りが増すばかりで……ずっとこのままにしておきたいと、叶わぬ願いを抱いてしまうほどに」

「あ、それはダメだからね。寝る前にちゃーんと落とさないと、荒れちゃったり、色素沈着の心配があるし!」

 お手入れは美の基本なんだから! と息巻く私に、心しておきますとお葉都ちゃんが麗しく笑む。
 彼女のために選んだ品を喜んでもらえるのは、私も嬉しい。
 けど、その喜びが大きければ大きいだけ、罪悪感が増すというか……。

「あのね、お葉都ちゃん。その……申し訳ないのだけど」

 しどろもどろに切り出した私に、お葉都ちゃんが首を傾げる。

「いかがされました? 彩愛様」