深々と頭を下げるお葉都ちゃんに、私は慌てて口を開く。

「それこそ、お葉都ちゃんの人柄……あやかし柄? あっての縁じゃない。それこそお葉都ちゃんがもっと嫌な性格だったら、私だって、一緒に"顔"を作りたいだなんて思わないし。カグラちゃんや渉さんだって、手伝ってくれなかったと思うもの」

 ねえ、と二人へと視線を流すと、

「そうだねえ。いくら彩愛ちゃんの頼みでも、好きになれない子にまで手は貸さないかな」

「俺は雅弥様とカグラさんの決めたことに従うまでですが……。お葉都さんが手伝ってくださるようになったおかげで、この店もかなりスムーズに回るようになりました」

 やっと姿を見て、直接お話出来るようになりましたね。
 嬉し気に微笑む渉さんに、私はん? と首を傾げ、

「そういえば、これまで渉さんとお葉都ちゃんって、どうやってお話してたんですか? 毎回カグラちゃんを通して……?」

「はじめはそうする場が多かったのですが、その後はお葉都さんに、文字にてお話いただいてました。慣れてきてからは音をたててもらったり、揺らしてもらったり。なんにしても、お葉都さんが文字もお上手で助かりました」

 カグラちゃんが肩をすくめて、渉さんの言葉を引き取る。

「あやかしの皆が皆、文字の読み書きが出来るってワケじゃないからねえ。明治以降の近代化で、現世(うつしよ)から隠世(かくりよ)に移るあやかしが多くなった影響もあって、近頃はヒト型の姿を持つあやかしも増えたようだけど……そもそも"言葉"に興味ないあやかしだっているし」

 知られざるあやかし事情。
 ふんふんと興味深々で頷いた私は、理解したと手を打って、

「つまり、こうして皆に助けてもらいながらお葉都ちゃんの"顔"が完成したのは、やっぱりお葉都ちゃんの努力あってのことってワケね!」

「うんうん、そういうことだね!」

 ね、とお葉都ちゃんに視線を戻すと、赤みがかった黒い瞳が感極まったように滲んだ。

「……皆さま……ありがとうございます。私は本当に、幸せものでございます」

「けどけどお、お葉都ちゃんにはもーっと頑張ってもらわないとだからね。次はヒトでいられる時間を伸ばす訓練しなきゃだし、ボクとの"対価"で、お店の手伝いもあるしねえ」

「はい。精一杯努めさせていただきますので、引き続きよろしくお願いいたします」

 頭を下げるお葉都ちゃんを微笑ましい気持ちで眺めていた私は、「そうだ」と思い出し、

「お葉都ちゃんに渡そうって思って、持ってきたモノがあるのだけど」

「私に、ですか?」

「ちょっと待ってね。ええと……」