「……よろしいですか。皆さま、彩愛様」

 面の頬部分を強張らせたお葉都ちゃんが、いつもより硬い仕草ですっくと立ちあがる。
 お馴染みのお座敷に集まっているのは、私に雅弥、そしてカグラちゃんに、渉さんと勢ぞろい。
 現在の『忘れ傘』は『準備中』の札が出ていて、貸切状態になっている。
 忙しなく胸を打つ緊張に両手を握り合わせながら、注目を受けた私は「……うん。お願い、お葉都ちゃん」と頷いた。
 覚悟を決めた様子で、お葉都ちゃんも深く頷く。

「それでは……」

 片方の手で着物の袖口を抑えたお葉都ちゃんは、滑らかに後頭部へと手を伸ばし、簪の一つを引き抜いた。
 赤い玉の艶めくそれを胸前で持ち、すうと吸い込んだ息に肩が上下した刹那。
 簪が淡く光りを帯び、白い煙が全身を覆ったかと思うと、柔く揺らめぎながら少しずつ薄らいでいく。
 と、その合間から覗いたのは、見慣れた私の唇によく似た――。

「い、いかがでしょうか」

 目尻の下がった、穏やかながらも凛とした目。柳のような美しい眉。
 すっと通った鼻筋から連なる鼻先は小さく、唇は馴染みのある、中央が少しふっくらとした"私"と同じ形。

「あの……彩愛様?」

 恥じるように染まる頬。不安気な瞳が私に向く。

「……満点」

「はい?」

「――お葉都ちゃんっ!」

 感動に立ち上がった私は、お葉都ちゃんへと一気に駆け寄って、

「成功よ成功っ! もうかんっぺき!! 天才っ! すんごい美人さん!」

 勢いにお葉都ちゃんの両手を握りこめて、興奮に思いつく限りの言葉を並べ立てる。
 お葉都ちゃんは安堵したようにほっと息を吐きだし、

「やっとのことで、こうしてご披露できるまでになれました。まだ限られた時間のみですが、こうして望んだ以上を手に出来たのも、彩愛様のお力添えあってのことでございます。本当、なんとお礼を申したらよいか……」

「私にお礼なんて。ぜーんぶお葉都ちゃんの頑張りの賜物じゃない!」

「……いいえ。私だけでは、到底成しえなかったことです」

 お葉都ちゃんは首を振って、

「カグラ様のご指導に、渉様のご協力。そして雅弥様にも、出入りする私を咎めることなく、温かく見守って頂きました。こうして皆さまとのご縁を結べるに至ったのも、あの夜、彩愛様がこの私を救い、導いてくださったからにございます。本当に、ありがとうございます」

 深々と頭を下げるお葉都ちゃんに、私は慌てて口を開く。