「……本当に、気を付けてね」

「郭くんまで……気にかけてくれて、ありがとうね」

「……ううん」

 なんだか微妙な顔をした郭くんは、カグラちゃんへと視線を向けて、

「……本当に、気を付けて」

「そうだね。ボクも頑張るよ」

 交わされる二人の視線に、謎の結託感。
 カグラちゃんは「さてと」と祠を見遣って、

「ここから隠世に渡るといいよ。ボクの祠だからね。安全はもちろん保障つき」

 パチリと飛ばされたウインクに、郭くんが「……ありがとう」と頭を下げる。
 灰色の、淡く輝く瞳が私を見上げた。

「……すごく、楽しかった。こんなに温かい気持ちで、帰れるとは、思わなかった」

 呟くように告げた郭くんは、手にしていたハンカチを大切そうに抱きしめる。

「……ハンカチ、絶対に返しにくるから、待っていて」

「うん。ずっと待ってるから、必ずよ」

「……約束」

 それはさながら、ゆびきりめいた。
 小指だけが上がる左手を掲げた郭くんに、私も小指を立てて「約束、ね」と応じる。刹那。

「"約束"をより強くするな」

「わ、雅弥! びっくりした……」

 飛び上がるようにして振り返ると、剣呑に双眸を細めた雅弥の姿。

「それは俺の台詞だ。ったく、ほんの少し目を離しただけでアンタは……カグラ」

 鋭い眼光もなんのその。カグラちゃんはころころと笑って、

「これくらい、彩愛ちゃんなら平気だよお。ね、彩愛ちゃん?」

「私? もちろん、約束を破るつもりもないし、言葉に嘘もないし。針千本のめるのかって心配なら無用だけど」

「そうでは……いや、もういい」

 雅弥は脱力したように息をついてから、頬を引き締めて郭くんへと視線を流す。
 と、おもむろに右腕をつい、と伸ばし、

「……コイツがお前の供をする」

 雅弥の袖口から真っ白な子狐が姿を現し、手の甲をててっと駆けると郭くんの肩に降り立った。
 くるりと首後ろを回り、反対の肩で腰を落ち着けたその口元には、ストローの吸い口だけを切り取ったような巻物を咥えている。

「俺の名で、書面を持たせる。それがあれば、事実以上の罪を問われることはないだろう」

「え、まって。それって、嘘の罪まで背負わされる可能性があるってこと?」

「言っただろう。あやかしは簡単に嘘をつく、と。現世の、今回の一件を"知った"あやかしが、退屈しのぎにあることないこと吹聴していてもおかしくはない。俺の名がついた書面があれば、そこに書かれた内容だけが事実とされる。……あいつらとは、そういう契約になっている」