どう? と尋ねられ、私は再び祠に視線を移す。
 自然に囲まれた、と言えば聞こえがいいけど、ひっそりと佇む姿は、まるでひとりぼっちのよう。
 とはいえ祠自体も古びているだけで苔や汚れはないから、手入れされているのは一目瞭然なのだけど。
 "住む"には手がかかりそうで、自分の"家"にするのは、ちょっと御免こうむりたい。
 カグラちゃんが一緒だと言うのなら、少し考えちゃうかもしれないけど。

(というか――)

 先ほどから胸を打つ高鳴りに、すうと息を吸い込む。
 正直、"家"としてどうかってことより、別の"事実"が私の胸を躍らせる。
 だって私がいま目にしているのは、神様の家で、隠世との境界なのだから。

「……正直言うと、すっごくドキドキしている。なんか、神聖なモノを前にしているっていうか、この世の神秘に触れているっていうか……」

 私は思わず参拝するようにして両手を合わせ、

「これからこういう祠を見かけたら、ちゃんと手を合わせるわね……!」

「あっはは! さっすが彩愛ちゃん。怖がる……はないにしても、同情のひとつはあるかなーって思ってたんだけど、全然だったね!」

 あ、しまった。私は慌てて、

「ご、ごめんねカグラちゃん! 私ったらつい……!」

「ううん。むしろ、良かったよ。こーんなボロでも、ボクにとったら大事な"居場所"だから」

 カグラちゃんは「ああでも」と指先で目尻の涙をぬぐって、

「道端で見つけても、むやみやたらに祈らないほうがいいよ。場所によっては本来居た"神"じゃなくて、良くないモノが憑いちゃってる場合もあるし。仮にちゃーんと"神"だったとしても、変に気に入られちゃうと厄介だしね」

「あ、それってもしかして、連れ去れちゃったり?」

「そうそう。昔から"神隠し"って言葉があるくらいだからねえ。彩愛ちゃんも気を付けないと!」

(……雅弥と郭くんといい、私ってそんなに危なかっしいのかな)

 まあでも確かに、私はこんなに綺麗だし。
 あやかしや神様がどんな基準で選んでるのかはわからないけど、顔基準なら「一目惚れです!」なんて言われてもおかしくはないかな。

「わかった、気をつける!」

 元気よく頷いた私に、「うんうん、ボクも気をつけるね」とカグラちゃん。

(鈴の件といい、私の身の安全まで気にしてれるなんて優しいなあ……)

 ほっこりしていると、隣の郭くんが私の袖をくんと引いた。