「……確かに、あなたは少し、危ないかもしれない」

「へ?」

「……これ」

 郭くんはそう言って、自身の耳元に手を滑らせた。
 その耳を飾っていたピアスを外し、私へと差し出す。

「……これには、僕の妖力が込められているんだ。あまり強くはないけれど、少しだけ、あなたを守れるかもしれない」

 もらって、と告げる郭くんに、私は戸惑いながら、

「そんな大事なモノ、本当に私に渡しちゃっていいの?」

「……うん。あなたに、受け取ってほしい。……僕もまた、ここであなたと会いたいから」

 向けられた笑みに微かな願いを見つけてしまって、私はその強い瞳に背を押されつつ「ありがとう」と受け取ろうとした。
 刹那。

「本当に渡すつもりか」

「!」

 硬い声に、上げた手を止める。
 見れば雅弥は見定めるような双眸で、郭くんをまっすぐに見据えていた。
 口を挟めない。そんな空気を感じ取った私は、場合によってはすぐに助け舟をだそうと準備をしながら、心配を手に郭くんを見遣る。
 けれど郭くんはひるむことなく、決意を帯びた表情で「うん」と頷き、

「……渡しても、いい?」

「……害することが目的でないのなら、俺に止める権利はない」

「……ありがとう」

 ロールケーキを一口放り込んだ雅弥は複雑そうに顔をしかめているけども、どうやら話はまとまったみたい。
 再び私へと向き直った郭くんから、今度こそ「ありがとう」とピアスを受け取った。
 淡い雫のようなそれは、光の角度によって、透明にも青色にも見える。

 ――綺麗。

 私は右耳のピアスを外して、さっそくと受け取ったそれを耳に。

「どう? 似合ってるでしょ?」

 髪を退け尋ねた私に、「……うん。よく、なじんでる」と郭くん。
 私はそうでしょそうでしょと満足に頷いて、

「それにしても、私がちょっと危ないってどういう意味?」

 郭くんは苦笑交じりに口角を上げる。

「……あなたは、そのままでいて。僕は今のあなたに、助られたから」

 郭くんはそっと手を伸ばして、私の耳につけたピアスに触れた。

「……次はきっと、僕があなたを守る」

 それはまるで、未来での再会を誓うかのような。
 だから私もこの先を祈って、「ピアス、大事にするね」と笑みを返した。

 共に願いを乗せた舌状に残る、抹茶の渋みと苺の甘さ。
 彼の誠心が込められたピアスが、"次"を叶えるまでの支えになってくれたなら。