だからね、と。
 私はもう一つの再会を胸に描きながら、

「今回は、渉さんと雅弥の"おもてなし"だったでしょ? 今度ここで会えた時は、私が郭くんにご馳走してあげる」

「……いいの?」

「もちろん! あ、でもその代わり、私の話し相手になってもらうから、その覚悟で」

 ね、とちょっと意地悪っぽく両目を細めた私の対面で、雅弥が「アンタはまた……」と額を抑える。
 私は何を今更、と首を傾げて、

「だって雅弥、ハンカチ返してもらうってだけでも、二人で勝手に会うなって言うでしょ?」

「当たり前だ。アンタはあやかしに抗う(すべ)を持たないだろう。そればかりか、そいつらに対して考えが甘すぎる。俺がいてこの有様では、俺の目の届かない場でうっかり連れ去れてもおかしくは……」

「え? 隠世って、"見える"ってだけの私でも行けるの?」

「……昔から、ヒトが隠世に来ることは、あるよ。連れてこられたり、紛れ込んじゃったり、理由はいろいろだけど」

 でも、と。
 郭くんは悲し気に眉根を寄せて、

「隠世の空気は、ヒトにはあまり、良くないから。あやかしと"契り"を結ばないと、そう長くは、いられない」

「へえ……ってことは、私がもし連れていかれちゃった場合は、急いで戻ってくるか、そのあやかしとなんとしても"契り"? とやらを結べばいいってことね!」

 理解した! と手を打った私に、「だから、どうしてアンタはそう考えが斜め上なんだ……!」と憤る雅弥の声。

「だって、注意すべき事項があるのなら、ちゃんと対応策を知っておかないとだし」

「そもそもまず最優先事項として、危険事に足を突っ込まないよう、振る舞いを正してだな……!」

「だから郭くんとも、『忘れ傘』で会おうって話してるんじゃない。郭くんが私を襲ったり連れ去ったりするとは思えないけど、そうやって雅弥の胃がキリキリしちゃうでしょ?」

「俺の胃の心配をするのなら、あやかしや神と"約束"を結ぶのを止めろ」

「それは無理。だって私の人生は、私が選んでいくモノだし。私がしたいって思ったら、止められるのは私だけなんだから」

「……じゃじゃ馬め」

 歯噛みするような罵倒も、「私をコントロールしたいのなら、上手く乗りこなしてくださーい」と受け流してみせる。
 だってお葉都ちゃんの顔造りも、カグラちゃんの事情も、郭くんとのいつかの再会も。
 相手があやかしだとか神だとかなんて関係なく、全部、私が大切にしたい"約束"だから。