私はパフェをすくい取りながら、

「郭くんは、どうやってお爺さん出会ったの?」

 郭くんもまた、スプーンを手にして、

「……はじまりは、本当に、偶然だったんだ」

 そうして郭くんは、愛おしい思い出をひとつひとつ包んでいくように、あの家での日々を話してくれた。
 隠世での生活に侘しさを感じていた岳くんは、七年ほど前に逃げるようにして、現世にやってきたらしい。
 あてもなく、その日暮らしでふらふらしていた、夏の夜。ひっそりと明かりをともす、あの家を見つけた。

「二階の窓が、開いていたんだ。その部屋は人もいなくて、僕はこっそり、そこで寝た」

 心地よい夜風に、見上げた窓から見えた夏の星。
 周囲に木が多いからか、ヒトの気配よりも虫たちの声が近くて、郭くんはその日からその部屋を寝床にしてのだと言う。
 そうして日が暮れてから部屋に忍び込む密かな日々が一変したのは、とある大雨の日。

「閉まってるだろうなって思ったけど、いつもの窓を、見に行った。……そしたら、開いてた」

 郭くんはその時を懐かしむように目元を緩め、

「戸締り、忘れちゃったのかなって。入ってみたら、少し離れた窓下に、タオルが置いてあった。上に、小さいメモが乗ってた」

 メモには『これから台風がくるよ』と書かれていた。
 それと、『嫌でなければ、一度姿を見せてほしい』とも。

「すごく、驚いた。だって、気づかれているなんて、思ってもなかったから。……あの家には、ヒトとは違う気配なんて、ひとつもなかったのに」

 とはいえ、知られてしまったのは事実。
 悩みに悩んだ郭くんは、窓を締め、タオルで雨水を拭ってから一階に降りることにした。
 怒られるだけなら、まだいい。もしかしたら相手は自分を疎んでいて、捕らえられてしまうかもしれない。

 そんな葛藤(かっとう)をかかえながらも、郭くんは、自身の願望に賭けた。
 雨水に湿った絨毯(じゅうたん)。柔らかなタオル。丁寧に書かれたメモ。
 自分のためにここまでしてくれたヒトなのだから、きっと、優しいヒトに違いないと。

「お礼が、言いたかったんだ。……気づいていて、それでもずっと黙って、部屋を貸し続けてくれてたってことだから」

「……確認なのだけど、お爺さんって"普通"の人だったのよね?」

「……うん。あの人は、二人と違って、僕たちが見えないヒトだったよ」

「なのに郭くんに気が付いたのって……私みたいに、突然能力が目覚めた系ってこと?」