「企画モノか……。どうぞ、上がってって?」
 立ち話も何なので、私は彼を部屋に(まね)き入れた。
「――おジャマします」 
 彼は付き合い始めてもう一年近くになるのに、まだ態度を崩してくれない。でもそれは決して心を許してくれていないからじゃなく、彼なりの〝ケジメ〟なんだと私も分かっている。 
 リビングに彼を通すと、冷たいオレンジジュースのグラスを出してあげた。
「話を聞く前に、ちょっと着替えてくるから待ってて?」
「はい」
 私は仕事着から普段着に着替えるために、一度寝室(兼仕事部屋)に引っ込む。部屋着であるユルっとしたTシャツとスウェットパンツに着替えると、彼の待つリビングに戻った。
「――で、〝新企画〟ってどんな企画なの? (くわ)しく聞かせてくれる?」
 私は原口さんの(とな)りに腰を下ろし、彼に話を振った。
「はい。――えーっとですね、今回わが〈パルフェ文庫〉では『読者の恋愛経験談を小説化しよう!』という企画をやることになりまして。公式サイトで募集をかけたんです。ネットへの投稿はもちろん、郵送でも受け付けました」