「折角のクリスマスやのに、雰囲気台無しですみません」
クリスマスイブの夜、佳亮は何時も通り薫子の家を訪れていた。スーパーで買ってきた材料を部屋の冷蔵庫に入れると、佳亮は薫子がクリスマスパーティーで当てたホットプレートをテーブルに出した。
薫子の部屋のテーブルは二人分のお皿とお茶碗と小鉢を並べるだけで精いっぱいの小さなもので、だからホットプレートはかなり場所をとる。取り分けるお皿などはお盆に乗せてラグの上に置いた。
薫子は目の前で展開される料理が出来上がっていく様を、目を輝かせてみていた。
「チーズが溶けましたから、もうええと思いますよ」
「家でチーズタッカルビが食べられるなんて嬉しい!」
薫子は早速取り分け皿に鶏肉をチーズに絡めて口に運んだ。
「うん! 美味しいわ! ビールがまた合うわね~、進んじゃう」
「今日はほどほどにしておかないと。明日も仕事があることですし」
「うん、でももう一本だけ!」
ぷしゅ、と音をさせてプルを開ける薫子は幸せそうだ。食事を作りに行くと朝に連絡をしておいただけあって、お腹を空かせていてくれたらしい。二人分のチーズタッカルビはあっという間になくなった。
「ヤバいわね、ホットプレート。これはもしかして、後片付けも簡単なんじゃない? ほら、取り皿だけよ?」
「そうですね。それもホットプレートの良いところです」
佳亮は食べ終わった食器とホットプレートを片付けると、冷蔵庫からケーキを取り出した。クリスマスだしと思って、一応だ。
「カットケーキで申し訳ないんですけど。薫子さん、栗好きでしょう」
「嬉しいわ。雰囲気楽しめるもの」
インスタントコーヒーを淹れ、ケーキと一緒に出した。薫子用にはモンブランだ。
薫子がマグカップを手にする前に、佳亮は鞄からある包みを取り出した。
「あの、薫子さん。本当はちゃんとしたお店で渡したかったんですけど……」
そう言ってリボンのついた小さな箱を薫子の前に差し出す。薫子はぱちりと瞬きをして、佳亮を見た。
「……やだ。私全然何も用意してないわ」
「気にしないでください。僕が、あの、あげたかっただけなので……」
開けても良いの? と聞く薫子に、是非、と応えた。薫子がリボンを解き小箱を開けると、中にはタンザナイトの一粒イヤリングが入っていた。色々考えたのだが、冬に凛と立つ薫子の顔立ちを思うと透明な寒色の方が良いかと思ったのだ。
「わ、素敵」
「そうですか? 良かった。薫子さんが欲しいものって分からなくて。でもアクセサリーなら持っていても損じゃないかなと思って」
「着けてみても良い?」
「是非」
薫子が鏡を取り出してイヤリングを着ける。鏡を見て満足そうに微笑う様子に安心した。
「素敵ね。私、あんまりアクセサリーって着けないんだけど、会社に着けて行っても良いかしら」
「もう薫子さんのものなので、自由に着けてください」
にこりと笑うと、薫子も嬉しそうに微笑った。