「織畑さん」
「杉山くん、当たりとは災難だったわね」
くすくす笑いながら織畑がフォンダンショコラを持って薫子の隣の席に座った。
「大瀧さん、楽しめてるかな」
「賑やかでいいですね。うちの会社のクリスマス会はプレゼント交換とチーム対抗のジェスチャーゲームですよ」
「そう言うゲームも主流よね。うちは外部の人もOKにしてるから、チーム対抗みたいなことは出来ないんだけど」
「でも、おかげでまたはるかさんにお会い出来ました。以前はありがとうございました」
多分、紅葉狩りの時のことを言っている。織畑はいいのよ、そんなこと、と微笑った。
「また何かあったら連絡して。杉山くん情報だったら、何時でも流すわ」
「そうですね、何かの時には」
勝手にやり取りされる自分の情報と言うのは気になるが、織畑ならそんなに悪いことは言わないのではないかと信用している。
「あとでビンゴ大会よ。景品当ててね」
織畑は薫子にそう言って、佐倉のところへ帰って行った。
「そういえば、ビンゴって結婚式の二次会でやって以来だわ。忘年会でもクリスマス会でもやらないから」
「良い景品が当たると良いですね」
やがてゲームとゲームの間の歓談の時間が終わり、ビンゴゲームが始まる。進行役が数字を引いて、皆でカードの数字を折っていく。七回目で最初のビンゴが出て、早いなあと思っていたら九回目で二人目のビンゴが出た。
「何人まで景品あるんだろう」
「なにか当てたいわね」
そう言って数字を折っていくと、佳亮より薫子の方が先にビンゴになった。
席を立って景品を受け取りに行った薫子は、何やらとても大きなものをもらって席に帰って来た。
長方形の大きな包みはゲーム盤ほどの大きさだった。
「なんだろう」
薫子が包みを少し解いて中を覗くと、あっ、と薫子が声を上げてにこりと笑った。
「佳亮くん、良いものをもらっちゃったわ。ホットプレートよ、これ」
「へえ! 結構良い景品用意してるんですね」
初めて参加したから、クリスマス会の内容も、ゲームの景品についても知らなかった。会社の人間が集まって一定規模の催しをする時は半分経費で落ちると聞いていたが、それにしても会費を割と取るなあと思っていたから、きっと先刻の美味しい料理やこういう景品に使っているのだろう。
「これ、活用できる? 佳亮くん」
「これから寒いですし、テーブルの上で焼き立てを食べられるメニューを考えますよ。チゲ鍋繋がりじゃないですけど、チヂミとか」
薫子の家の調理器具は、最初に佳亮が買いそろえて以来増やしていないので、ちょうど良かったと思う。
「確かに、フライパンで一人分ずつ作ってるより熱々を食べられそう。良いのかしら、部外者がこんな良いものを」
「会費がちょっと値が張りましたからね。逆にもらわないと払い損ですよ。持って帰りましょう」
「ちょっと電車で持って帰るには大きいわね。私帰りにタクシーを拾うわ。佳亮くん、一緒に乗って帰りましょ」
家は向かいのマンションだし二人で乗れば安く済む。佳亮も頷いた。
ビンゴ大会は、残念ながら佳亮は上がれなかった。微妙にビンゴにならないカードをゲームの最後まで持ったまま終わってしまった。
「ハバネロには当たっちゃうし、ビンゴは当たらないし、良いことなかったなあ……」
佳亮がため息をつくと薫子が、私ばっかり楽しんでごめんなさい、と笑って言った。まあ、薫子が楽しめたのならそれで良い。気にしないでと伝えると、最後にみんなで集まって記念撮影をした。
パーティーは終わり、各自解散、となった時、佳亮は中田原と長谷川に呼ばれた。薫子に断って店の奥に行こうとすると、薫子が先にタクシーを探しておくと言った。
「酔っ払いも多いと思うので、気を付けてくださいね」
「大丈夫よ。お話終わったら出て来てね」
そう言って薫子は店から出て行った。