それから数週間後の金曜日。業後に薫子から連絡があり、明日、また出張料理をしてくれないかとお伺いが来た。久しぶりなのでわくわくする。

何を作ろう。何を食べたいと言うだろう。薫子の喜ぶ顔が見られると思ったら、その夜はなかなか寝付けなかった。

土曜日午後四時。薫子の部屋を訪れると、以前と変わらない様子で出迎えてくれた。

「この前はごめんね。みっともないところを見せて」

薫子が開口一番、あの時のことを謝ってきた。でも病気だったのだから仕方ないと思う。

「薫子さんが病気やったなんて知りませんでした。僕こそずかずか押しかけてもーてすみませんでした」

「良いのよ、佐々木が連れてきたんでしょう」

まあ、そうだ。彼女が気を利かせてくれただけで、佳亮が積極的に行きたいと頼んだわけではない。

「そうですね。じゃあ、買い物に行きましょうか。今日は何が食べたいですか?」

薫子は既に小さな鞄を持って出かける準備は整っている。佳亮も玄関を上がってないから、そのままスーパーに行ける。

「ええとね、私、オムライスが食べたいわ」

「オムライス?」

今までのリクエストから比べるとやけに簡単なメニューのリクエストだ。それでも薫子が食べたいというのならそれを作ろうじゃないか。

冷蔵庫に一つも卵がないことを確認して、買い物に出掛ける。並んで歩くのも久しぶりだ。

「お米も炊きますよね。あと、オムライスに入れるものは何か好きなものはありますか?」

「何が入ってたかしら? オムライスって、小さい頃に食べた記憶しかないのよ」

なるほど、あんな豪邸に住んでいるくらいだから、きっとお抱えのシェフなんかが居て、普段はそれはそれは高級な食事を食べていたんだろう。オムライスなんて庶民や子供の食べ物だから、大人になった薫子が覚えてなくても仕方ない。佳亮は直ぐに、鶏肉とニンジン、マッシュルームとコーンを入れることを提案した。薫子も笑顔で承諾してくれる。

「しかし、薫子さんがあんなお嬢様やったなんて知りませんでした。社長やって知った時も驚きましたけど」

佳亮が思い出して言うと、薫子は不機嫌そうに眉を寄せた。