今日は佳亮の出張料理がない週末だった。薫子はコンビニでビールとおにぎりを買って、マンションに戻ろうとして、そういえば桜が満開だとニュースで言っていたなと思い出すと、マンションの近くにある河川敷に足を向けた。
コンビニで買ったビールを飲みながら河川敷の歩道を歩く。空が水彩絵の具を溶かしたような水色で、薄く雲がたなびいている。その下に満開の桜。とてもすがすがしい気持ちだった。
天気がいいのでビールが進んでしまう。もう一本買っておけば良かったと思い、自動販売機を探して視線を彷徨わせたその時。
向こうの方のベンチに座っている、カップル。佳亮くんだ。隣は誰だろう。佳亮くんよりも小さくて髪が長くて風にさらさら流れている。
二人はお重を取り出して、そこから何かを頬張っている。お弁当? 様子からして、彼女の手作りのようだった。
仲良くお弁当を囲む二人は、桜の背景も相まって、とてもお似合いのカップルだ。佳亮くんは最初に顔を見たときに思った通り、目が大きくて印象的なかわいい子だし、彼女は佳亮くんより小さくて、きっと佳亮くんの腕にすっぽり収まる。
(………)
うわあ、なんか見ちゃいけないものを見ちゃった気分! 今度、どういう顔で佳亮くんに会えば良い!?
薫子は混乱して、取り敢えずその場から離れた。
見ちゃいけない。あれは私が知らない佳亮くんの顔。佳亮くんにだってプライベートがある。そのことを、私たち二人は共有してきたし、これからも共有し続ける。
だから、また来週、佳亮くんがご飯を作りに来てくれた時、ご飯を美味しいって食べて、お礼にコーヒーをご馳走すれば良いんだ。
薫子はそう思ってマンションに走って帰った。