「ハジメオーナー、お茶の用意
できましたよー。
淹れさせて もらいますねー。」


そう言うと、シオン君は、
慣れた手つきで、中国茶を淹れる

中国茶器で、丁寧にお手前を
ハジメの目の前で、披露して
くれるのだ。

こう、小さな 急須に
高く まるで 虹を かける
みたいに、
お湯を 注ぐんだよねぇ。

どうやら、お茶請けは、、、
オリーブ?!

「これは~、オリーブの実で
いいのかなん?」

鮮やかな
グリーンのオリーブは、
艶っとして、
みずみずしく見えるから、
オイル漬け じゃないよねん~。

「塩漬けオリーブですよ。
珍しいですよねー。でも、
本当は、新漬けって 熟れたて
オリーブの浅漬けが
欲しかったんですけど」

シーズン じゃないんですよねー。
って、苦笑して
中国茶葉の薫りを
クルーザーに 孕ませる。

相変わらず、
シオン君の美味しいものセンサー
万能だよねぇ。

「ねぇ、後輩ちゃん。
この茶葉って 何?なんだか
花の香り?
あ、キンモクセイよね?」

ヨミ君が 錨の細工が ついた、
眼鏡の ツルを 指で上げる。

「これは、『黄金桂』って茶葉
ですよー。ヨミ先輩、ご名答!
キンモクセイの香りから、
ついた 名前なんです。」

そう 手を拍手させながら、
シオン君は、黄金色をした
お茶を前に、置いてくれる。

本当に、金木犀の 香りするよ~。

今クルーザーにはぁ、
ギャラリーオフィスの人間だけ
あ、クルーザーの運転手もだねん

2組のゲストは、小豆島に
そのまま滞在する為、
下船したのだよん。

もともと、直島のホテルにある
クルーザー桟橋から
連絡頂いての乗船ゲストなんだ~

初めてのゲストもいたけどねぇ。
意気投合~。ボクの気持ち汲んで
くれる いい人だったよぉ。

それに、お買い上げぇ
有り難うございますだよん。

『新しい青』にまつわる
話をしたら、小豆島にね
残るって なったのだよ~。

明日はね、小豆島八十八遍路の
景勝を堪能するってねん。
オススメした
のが、ボクだからなんだけど~

お遍路して 願掛け叶うと
いいと思ってさぁ。

また芸術祭中に 会えたらねぇ
お遍路の感想を聞いてみよう~

小豆島はぁ、
芸術祭のアートも 見所だけど
古からある祈り場は 凄い。

ここは、中国の敦煌か?
はたまた、バーミヤンか?って
眼を疑うぐらい
それはもう、信じられないぃ
光景が~。いや、奥深い島だよぉ

撮影禁止だからねぇ
どうしても メディアに出ないし
認知度が 低いんだよねん。
それが 残念なような~
穴場秘された場でね
安心なようなぁ、、、複雑。


夜の潮風に吹かれ
クルーザーデッキに、花の香り。

「農村歌舞伎、試行凝らして
あって 面白かったですよね 」

シオン君は、2煎目を急須に
淹れるのに、再び高く お湯を
掲げながらも、おしゃべりだ。

「とにかく全員が 主役って感じ? 三番叟が何人も出てくるのもね。」

ヨミ君は、ちゃっかり 2煎目を
貰う気 マンマンだよね~。

「あ、でも!たしか
どこかで、三 番叟姿で盆踊り
する 地域ありますよ!」

「え、そんなとこあるの?!
面白い。一晩中盆踊りってとこも
あるのに、三番叟だらけって。」

うん、ヨミ君が 驚くのもわかる。
だよね~。
しかし、あの歌舞伎の演出。
なかなか 粋でぇ、深い思考を
感じたよねぇ。

「まさかねぇ、桜姫の最初の場を
クローズアップさせて持ってくる
なんてぇ、目から鱗だよん。」

もちろん、ボクも2煎目頂くよん

「長い話です からね。本来は、
本当に 序盤の動線と 場面を、
あんな風にすると、今風ってゆう
か、、
後々 けっこうゲスい内容になる
のが、嘘な 幻想さ でしたね。」

ヨミ君は、何やら お茶を見つめて
感想を呟く。

「あの話の タイトルを、そのまま
お約束で 終わらして 本題に
行くんだよ 本来はねん。」

そう、
あの話は、歌舞伎の、というか
当時のゴシップを お約束で、
知っているのが、前提から
始まる 話だ。

「そうなんですよ! 本来は
タイトルを 聞いただけで、
あ、あの事件がベースね!って、
ピンとくるって話 なんです」

当時の人間なら、
あ、あの話ねーになるけど、
何百年たった ボク達には
わからない ワイドショー。

1つは、関東の御家騒動。
家宝を盗まれて、当主と双子の
息子が盗賊に惨殺された事件。

もう1つは、
初演される十年前の事件
関東で、京都の公家出身と
詐称する遊女がいた事件や

ある 遊女の正体が
日野家の姫御前 だったという
当時賑わせた スキャンダルだ。

この2つの事件を
『ご存知、例の話を元に』と
タイトルにしているからこそ、

物語の序盤に お決まり場面だけ
それで観客には、お約束が
頭に浮かび、話に入れる。


「これって、今の流行りの話に
似た流れ!!って、途中で
思ったんですよー。
どう 思いま す?オーナー?!」

えっ?話が見えないよん。
シオン君?そんな かぶり付きで。

「あれ?今の流行り?確かにぃ、
この話は、初演から大分長く寝か
されて、昭和に復活した本だよ。

それで、最近は やたら、
現代劇や映画とかで
上演してるけどぉ~」

え?ヨミ君?何?残念そうな
顔で、ボクをみるのん!!

「後輩ちゃんが、言いたいのは、
最近のライトノベルの傾向との
比較ですよ、オーナー。」

最近の、ライトノベル、、、

「今、書店で幅を広げてる分野、
知りませんか?悪役令嬢や、
勇者とかの異世界モノですよー!

やたら、長いタイトルとかで、
そのタイトルだけで、中身の予想
が出来るんです。しかも、
お決まりのテンプレがあって。

悪役令嬢は 婚約破棄 されて、
急に 異世界に 飛ばされ聖女
とか、勇者とか。現代スキル
を、チート能力に 転換して。」

あわわ~、なんだかイキオイが~

「後輩ちゃん!わかる!わかるわ
本当だわ!歌舞伎のお約束設定
と、ライトノベルのお約束設定。
最後、ざまぁするあたり!
タイトルに 設定を匂わすね!

あら、なら時代劇もそうかも?
え、サスペンスもそうねぇ。
出てくる温泉地までわかるし。

でも、歌舞伎が 如実かも。
凝縮させた 世界観が
非現実で華やかさを出すとこ。」

う~ん。なるぼどぉ。
クールジャパンカルチャーで、
そんな事になっていてぇ
そこに 日本人の嗜好傾向が
あると~。

「そう考えると、『タイトルだけ
で、内容がわかる』っていうのは
『てっとりばやく、無駄なく、話
に どっぷり 浸かりたい。』と
いう傾向で、昔っからの 日本人
の気質 なんですかねー。」

シオン君は、3煎目を 淹れて
口にしている。

明らかに、お茶の香りが 変化した

船はゆるやかに、
夜の海を 次の島へ 走る。
遠くに 漁火も 見える。
イカでも 釣るのか。

デバイスが 変われば、
書式も変わる。

5年もしたら、今の常識も変わる

その証拠に、旅行鞄に マスクを
入れるなんてぇ、海外ゲストは特に 考えも しなかったよねん。

たまに、ハジメは思う。

素材としては、
何百年も残る、残ってしまう
そんな 科学の素材が 日常ある。

そんな中で、自分の仕事は
何百年も先に、何かを残す
それに、値するような 仕事が
出来ている だろうか?

「なのにぃ、気がつくと、
人間の 本質ってぇ、
あんまり進歩ないっ て、
ことなのかねん? なんだか、
嫌になるほど、 笑うね~」

まだ、デッキで 話に花咲く
女性陣を 横に、ハジメは

次の島影を、タレた瞳に捉えた。