静寂の 境内に

リーーーーンと
幽玄か 音色の 風鈴の声


花の都の 吉田少将がぁ 娘は
東国に さらわれしが
『かの伝説の姫』

壮絶か人生ぃ 如何

清水寺の僧がぁ 姫 に恋し
大破戒するが 長き舞台ぃ

それ 始めの 縁起とは 如何

因果因縁

輪廻転生

諸行無常

因縁の 舞台はぁ
江ノ島 稚児ヶ浦
寄せるる 白波
断崖絶壁

まずはぁ 過去の因縁が 舞台

小豆が島の
農村が 舞台~

雲偏に愛く 波幕
黄昏時に 吹く風揺らぐ
蝋燭の 行灯

始まりますわぁ 幕開け
柏木柏木~

禁断の恋
同性愛
妻帯婚姻 不敬罪
所化と 寺稚児は
恋に溺るが 濡れ場

ああ
今生 相いれぬ 関係ならば
死して 未来に 夫婦にと

出奔 出奔

佇む二人は 稚児が淵
只今 稀代の 心中
秒読みか~

小さき香箱 蓋と身に 分け
蓋を 寺稚児が 左手に
身を 所化に
香箱
蓋と身
互いの名を 認め
起請代わりか

香箱や 愛の証

蓋を 握りしまま
来世で 必ず添い遂げるを 願い

寺稚児 ざんぶと 海へ飛び込む

愛せし 寺稚児
潔し 断崖 投げ出し 落ちる姿
ああ 小さくなり姿

仰天は 所化
荒れる波勢に ぽちゃり消えし
愛おし 稚児

追って 荒海に
いけや所化!今いけ!

が 怖気け 躊躇し
死に遅れ 生き残りし
無様さぁ 所化なぁ

何故に 身投げ出来ぬか
我が 恥の身やぁ

「白菊やぁい」

出奔 寺稚児を 探す声
遠きに 聞こえしを
顔面蒼白
只只 絶壁にて 放心するが 所化

一羽の 白鷺
スイ飛び立つ にて
あれは、なにが 兆しか


あれや、夕暮れに
回るや 人力廻り 舞台

時は流れし 十七年月
現れますは
新清水寺の 境内

桜が 大満開 清水観音堂
花見や花見や 行幸や

憂いの姫は 年十七

出家を 心に 寺門に すがる姫
必死や
止める 腰元達の 情景

揺れる 女衣や 衣装達
柏木柏木~

境内 段幕下がる 島花道を
十七年前
心中
叶わず 修行しし 今は高僧
あの 所化が
弟子も 引き連れ 参り舞台へ

姫の出家 願いを 聞きし
弟子達も 出家を 止めるや
女は罪多しが 故にと はぁ
戯れ言がぁ


姫は 出家の 事情あり

聞けば 生まれてこのかた
左の手が 開かぬ

1つ
この身体や 縁談進まず
断われる ばかり
この身の 故は
前世の罪の せいか
出家にて 願うは
在業消滅

2つ
姫は 殿様の 子女が
悪辣なる者 屋敷に忍び
殿様を 惨殺
家宝「都鳥の一巻」
奪われ
弟をも 殺され
お家は 明日には断絶

悪辣の者に 手籠め受け
身に子さえ 産みし体

出家しは 家族供養をと
血涙の決意が 姫や姿

事の顛末
聞きし 同情の 元所化
今は 高僧
姫の出家に『十念』授けし

『 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』

神聖なりし 仏の御名を 唱え
姫の身 仏に 近けんとす

あれ『十念』の功徳~

姫の左手が みるみる開きか
掌から 出てきたは
前幕にて
身を 滅ぼしや あの君が蓋
愛おし 寺稚児や

我が 名書かれし
香箱の 蓋!

驚愕は 元所化

姫や 愛おし 寺稚児の
生まれ 変わりか

元所化や 今は高僧
姫の 左の手を むんずと掴み

恋か 責任か 執着か
人の心とは 摩訶不思議
所化や 高僧 浮かばれぬ
心の奥の 波の音

ザンザと 泡立ちかけ上がる
高僧の右の手に
香箱の身

2つ 合わ~せて~

ダダンダダン
柏木柏木~

出でたる 黒子が
二人を 七変化か
僧の衣と 姫の衣を 引っ張るや
現れる 前幕の衣装

過去の 因縁
江ノ島は 稚児ヶ浦

元所化、姫稚児
合わせる 香箱を
一羽の 白鷺
スイ飛び立つにて

客の波間に間に
香箱を咥えて ゆらゆら

神場の社へと 消え失せる

因果因縁

輪廻転生

諸行無常

禁断の恋
不敬罪
今生 相いれぬ
死して 来世に 契り

愛の証は
断崖絶壁
死に遅れ 生き残り

只只絶壁

秒読みか
在業消滅


静寂の 境内に

リーーーーン
リーーーーンと
幽玄か 音色の 風鈴の声

夕闇迫る 舞台に
篝火の行灯揺れる