学校に近づくと、他の人に見られたくないので少し名残惜しいが夏帆ちゃんとつないでいる手をはなす。ついこの間までこの校門を潜るのが怖かった。そんな校門を2人で並んでわたる。生徒会の人があいさつ運動をしている横を通り、学校の中に入る。今、僕の目の前にある下駄箱を開けるのが怖かった。虫が入っていたり、上履きがなくなっていたり。いろんなことをされた。自分がいじめられていることを言えなかった僕は、どんなに汚れていても異臭がしても履き続けていたので、この上履きは自分がどんなに我慢したかを証明するものだ。下駄箱を開けると、ボロボロになった上履きはなく、綺麗になっていた。そう言えば母さんが朝、汚くなってたから買い換えておいたって言っていたような気がした。

「どうしたの?」

後ろから、すでに上履きに履き替えた夏帆ちゃんが不思議そうに僕のことを見ていた。

「うんん。なんでもないよ。行こうか。」

「そうだね。」

夏帆ちゃんは笑顔で答えてくれた。

履き慣れていない新品の上履きに少し苦戦しながら最上階にある1年生の階に着く。僕の教室は1年2組。教室に入るのはいつも緊張していた。その都度、いろいろな覚悟を決めてこの部屋に入っていた。夏帆ちゃんが先行して教室の扉を開けるや否や数人の同級生に囲まれた。

「おはよう。」

その近寄ってきた同級生から挨拶をされた。そんなこと今までなかったからどうしていいかわからない。

「お、おはよう。」

ぎこちなく挨拶を返すしかできなかった。なんとなくだが、同級生の目は輝いていた。