夏帆ちゃんはせっかく一緒に行くのに自分から目を逸らしながら、僕の隣を歩いている。何がしたいんだろう?

「あのね。ありがとう。」

突然、話しかけられた。しかも、感謝された。

「僕は何もしてないけど?」

そういうと夏帆ちゃんは目を見開いて自分に近づいてきた。

「そんなことないよ!!私も、勝くんに虐められてたから、とっても助かったんだよ!!それに、カッコよかったし・・・。」

最初の大きな声に比べて、後半は少し声が小さくなっていたが僕にははっきり聞こえていた。夏帆ちゃんは自分の顔が近いということに気づきまた目を逸らしてしまった。でも、さっきよりも顔が赤くなっていた。

「そっか。よかった。嬉しいよ。」

僕は少し恥ずかしさもあったが、素直な気持ちを伝えた。すこし時間が経っても、夏帆ちゃんはまだ僕から顔を背けたままで会話もない。僕は勇気を振り絞って夏帆ちゃんに体を近づける。手が触れる。少しびっくりしたみたいだけど、僕から離れることはなかった。僕はさらに、掌と掌を合わせ、優しく握る。戸惑いがあったのかもしれない。夏帆ちゃんは顔を向ける。ようやく僕に顔を見せてくれた。戸惑っている顔に僕は笑顔で答える。それに答えるように少しずつ夏帆ちゃんの手に力が入っていく。肩と肩が触れる距離まで僕たちは近づいた。歩きにくさはあったけど、なんかこのまま離したくないと素直に思った。でも、2人の間に会話はなかった。言葉を発するとこの2人だけの空間が壊れそうだったから。