「時間が来て、彼を迎えに行ったとき、彼と彼の力で作った世界は消滅する。記憶にも記録にも残らない。彼のことを覚えていられるのはこの天界で自分たちだけ。地上にいる人は天界に来ると同時に記憶から彼のことが消える。思い出も何もかもが消える。それが、彼に対する罰だ。」

地獄のように苦痛はない。痛みも一切ない。人の記憶から自分が消えるだけ。それが親であろうと恋人であろうと夫婦だとしても。地獄に行く人間のように自殺をした人間は天界にとっては間違った魂なのだから。

「そんなことって・・・。それなら地獄に行ったほうがいいじゃないですか。」

人の価値観はそれぞれ。しおりにとってはあらゆる苦痛の中でも忘れられるということが耐えられないのだろう。それには自分も激しく同意する。

「そうかもしれない。俺もそう思う。それでもこの方法で裁かなきゃいけない。それが俺たちに与えられた仕事で自殺に対する裁きの答えなんだ。」

わかりやすい罪状なら同情の余地なく捌くことができるかもしれない。でもここでは、苦しんで自ら命をたってしまった人を裁く必要がある。同情がなくなることは決してない。

「むしろ、俺はここでは幸せになって欲しい。でも、それはできないんだ。だからこそ、一時でもいいから幸せを感じて欲しい。そう思って、俺はこの罰を選んだ。」

しおりは自分の話を聞いて黙ってしまった。