店員さんの勧めで買ったネックレスの袋を握り、店を出る。夏帆と別れた場所にはすでに夏帆がいた。

「ごめん。探した?」

「うんん。帰ってきた時にいなかったからびっくりしたけど、すぐに戻ってきてくれたから大丈夫だよ。」

夏帆の視線が僕の手に持っているものに向けられる。

「それ何?」

「後でね。落ち着けるところに行こうか。」

人通りの多いここで渡すのは周りに迷惑になると思ったので夏帆の手を引いて近くにあった飲食店に入った。席に向かい合わせで座り、軽く注文を済ませた。僕は自慢げに先ほど買った袋からネックレスの箱を出す。

「目を瞑って。ちょっとこっちに近づいて。」

夏帆は何かを察したのか、僕の指示通りに目をつぶり、顔を僕に近づけた。僕はネックレスを取り出して、まずは自分に。その後に手を伸ばして夏帆の首にかける。

「もういいよ。」

夏帆は少しずつ目を開ける。夏帆の顔が明るくなる。

「僕からのプレゼント。あの店の前で指輪見てたでしょ?指輪は夏帆のサイズがわからなかったから、買えなかったけど同じブランドのネックレスならいいかなと思ったけど。どうかな?」

「嬉しい。ありがと。」

夏帆は喜んでくれたみたいだ。

そうこうしているうちに、あたりはすこし暗くなっていた。僕たちは店を出た。

「最後に私行きたいところあるの。ついてきてくれる?」

夏帆からの提案があったので最後に、夏帆の買い物に付き合うことにした。僕たちはきた道を戻り、さっきいた場所に戻ってくる。

「ここって。」

「うん。もらってばかりじゃいけないと思ったんだ。2人で買いに来ればお互いにサイズのこと悩まなくていいでしょ?今度は私からプレゼントさせて。」

「でも・・・。」

「いいから、いいから。」

僕は夏帆に強引に手を引かれて店内に入った。

「いらっしゃいま・・・。あら?」

店員さんもまたきた同じ顔にすこし驚いたみたいだ。

「今度は彼女も一緒ですか?もしかして、ネックレスに何か不備がありましたか?」

「いいえ。違いますよ。ほら見てください。何も問題ありません。」

夏帆は自分の首にかかっているネックレスを自慢げに見せた。

「よかったです。お綺麗ですよ。」

そう言われると夏帆は顔を伏せて、照れているみたいだ。

「そんなことより、今度はペアリング買いに来ました。サイズは買ってください。」

「わかりました。なら、指のサイズを計りますね。」

店員さんは様々なリングの大きさが一つになっている器具を使って、右手の薬指のサイズを測った。結婚指輪を左手の薬指にするのは知っていたが、恋人同士のペアリングは右手にすると初めて知った。

「そうですね。彼女さんは7号で、彼氏さんは14号ですね。指輪のデザインは前におっしゃっていたものでいいですか?」

「はい。問題ありません」。

「なら、準備するのでそこのソファーでお待ちになっていてください。」

僕たちは言われた通りに店の奥にあるソファーに腰を下ろした。

「こちらが商品になります。確認をよろしくお願いします。」

店員さんが2人分の指輪を持ってきた。僕たちは指にこれをつける。サイズはぴったりで問題はないみたいだ。

「問題なさそうですね。」

「はい。ぴったりです。」

指輪を入れる箱をもらい、会計を済ませた。そうするといい加減帰らなくてはいけない時間。これ以上遅れると親に心配をかけてしまう。

帰りの電車の中。夏帆はずっと指輪を見ている。

「気に入ったの?」

「もちろん。私、初めて指輪を買うときはこれにするって決めてたんだ。両親の結婚指輪がこれだったから。」

「そうなんだ。」

夏帆の顔を終始ニコニコだった。

電車を降りると、すっかりあたりは暗くなっていて該当の光が眩しい。

「こんな時間になって怒られないかな?」

「怒られてもいいかも。怒られるよりも、今日のことが嬉しかったから。」

「それもそうだね。」

怒られることなんてどうでもいい。今が楽しくてたまらない。
住宅街の中はいろいろな匂いが混ざっている。この家はカレーだなとか、唐揚げだとか。鼻をきかせながら、すこしずつそれぞれの帰る家に近づいていく。

「もうついちゃうね。」

ふと、僕が話しかける。

「これからも一緒だから大丈夫だよ。」

と、夏帆はいう。

「そうだね。これからも一緒だもんね。」

「そう。じゃあまた明日。」

「また明日。」

何か僕の中で引っかかるものがあったが、この時僕は何かを忘れていたみたいだ。

家に帰ると、油の弾ける音が聞こえる。香ばしい匂いとともに、「おかえりなさい」という言葉が聞こえる。

「遅かったじゃない。もう少しで夕飯できるから着替えてきなさい。」

と、母さんに言われたので自室に戻った。夏帆とのことをいじられるのが嫌だったので、指輪とネックレスを外し、箱に大切に戻した。

部屋着に着替えて下に行くと、父さんが帰ってきていた。

「お帰りなさい。」

「ただいま。」

3人で食卓を囲み、今日あったことを話す。夏帆とのことはすこし恥ずかしいので話さなかった。帰るのが遅くなった理由は友達と遊んでいたと誤魔化した。2人は僕の友達という言葉に偉く感動していた。中学校に入ってからこんなに笑顔な僕を見たのは初めてだと、今までとすこし違う僕を褒めていた。学校に行った母さんは、担任の先生と教頭などと話したらしい。いじめの詳しい内容、他のいじめの被害者のこと。先生は自分が気付けなかったことを謝罪したみたいだ。それ以上に僕に対しての感謝を伝えていたみたいだった。母さんの料理はもちろん美味しかった。当たり前の日常の最後の一コマだった。

ご飯を食べ終えるとお風呂に入り、リビングで家族揃ってT Vをみた。お笑い番組やドラマ、ニュースなど。明日のことを心配した母さんが早めに寝るように促した。

「幸助、明日も学校なんだから早く寝なさい。」

僕は母さんの指示に従い、自室に戻って、今日夏帆と買ってきたネックレスと指輪を大事にはめて床についた。

数時間後、僕は強い光で目が覚めた。

「いかがでしたか?時間です。お迎えにあがりました。」