体育の時間の後。教室で着替える。教室には男子しかいないため制汗剤の独特な匂いが教室中に充満している。周りからはスプレーのシューッという音が響く。

「お前こういうの持ってないの?」

体育の時間に仲良くなったやつに声をかけられた。

「自分の匂いなんて気にしたことないから。」

「汗臭いと彼女に嫌われるぞ。かしてやるから使ってみれば?」

強引に制汗スプレーを渡された。その後もじっと自分のことを見ているのでおそらく使わない限り、逃してはくれなさそうなので仕方なく使うことにする。体にシューッと吹きかける。慣れていない僕にとってはあまり気持ちいいものではなかった。

「どうだ?」

なぜか感想を聞かれる。聞かれたところで何かあるわけではないのに。

「気持ちよかったよ。」

この場を逃れるためだけに一応答える。

「ほんとか?結構嫌そうだったけど?」

ニヤニヤしながら僕のことを見てくる。そんなに顔に出ていたかな?

「少し、違和感があるだけで、なれてないだけだよ。」

「そうか。」

適当なやり取りの中に、友達ってこんな感じなのかなと思いがめぐった。悪いものじゃないな。

軽く談笑をしていると着替え終わった女子が教室に入ってきた。いまだに上半身を裸で過ごしている。女子は何もなかったかのように教室の自分の席に荷物を置く。所々から制汗剤がくさいと、クレームをいう声が聞こえる。確かに鼻を刺すような匂いがする。女子からはそういった匂いがしないのが不思議だ。

荷物を片付け終わった、夏帆が自分に近づいてくる。

「邪魔者は離れるか。」

そう言って、クラスメイトは自分から離れていく。

「名前は?」

少し失礼だと思ったが、今聞かないといけないと思った。

「渉だよ。これからもよろしくな。」

笑顔をお互いに交わした。