数日後。いつも通り少し早く来て授業の準備を始める。今日からはいつもとは違う感じのことをやろうと思う。ギブスも外れたことで心機一転とういわけでもないが、いいかげんみんな同じような感じの授業に飽きてきているだろう。いい加減自分がどう言った授業をやりたいのかわかってきたと思う。だからこそ、今度からはもっと自由度の高いものをしようと思う。これは普通の学校でもよくやる授業だ。準備の最中にいち早く隼人とさくらが来る。

「ギブス取れたんだ。なら今度から手伝わなくていいね。」

「いいのかぁ。目の前でさくらが見ているんだぞぉ。かっこいいとこ見せたくないのかなぁ?」

少しからかった口調で隼人を挑発する。案の定挑発に乗って手伝ってくれる。その姿を見てさくらと一緒に笑い合う。隼人のおかげで予定より早く準備が終わった。

「なんか今日は用意してるものが違うんだね。」

「いい加減同じような内容はみんな飽き飽きしてきただろうから、新しいことやろうかなって。それとお前に芸がないと馬鹿にされないためかな。」

「冊子がいいじゃん。そろそろそれ言おうと思っていたんだよ。それで今日使うのがレターセット?」

「そう。じゃあ、早くきて手伝ってくれたお礼になるかはわからないけど好きなの持っていっていいよ。ほらさくらも。」

さくらも呼び好きなのを選ばせる。そうこうやりとりをしているうちに続々と人が集まってきた。来た順にレターセットを渡し、授業を始める。

「じゃあ時間になったし始めようか。今日からはテイストを変えて今までやってきたことの実践をやってみようか。今まではいろいろな物語の人間になりきって、その人の感情や考えなどを想像してもらったけど、今回から数回自分の周りにいる人に焦点を当てて配ったレターセットで手紙を書いてもらいます。1つ条件として内容は思いを伝えるものにしてね。感謝を伝えるものでもいいし、ラブレターでもいい。今までの授業の内容を使って様々な視点から送る相手のことを見て思うことを素直に書いて。堅苦しい形式とかは考えずに書いていいから。ちなみに自分はみんなが書いたのを見るから自分に見られていい内容にしてね。恥ずかしいことだったり、知られたくないことは書かないこと。」

ふと気になったので隼人たちの方を向くと2人で話し合っていたのでお互いに書き合うのかな。

「じゃあ本格的に書き始める前になんで手紙を書くのか考えよっか。」

少し回りくどいかもと思ったがこれからは自分1人での作業になってしまうので大切なことはあらかじめ伝えておこうと思う。あくまでこれは授業だから書く意味まで考えながら書いてもらいたい。形式とかそう言ったことを無視するなら尚更。

「手紙を書くことの大きな利点は何かな?」

授業を頻繁にしている効果か発言が止まらない。1つ1つの発言にしっかり反応する。少し大袈裟に。伝わりやすいからとか、相手の顔を見ないから少し自分に正直になれるからとか。色々と意見が出る中で隼人から、残るからという発言が聞こえた。

「隼人わかってんじゃん。みんなが言っていたこと全て正解なんだけど今日僕が伝えたい手紙の最大の利点は手元に形として残るってこと。基本的に人にものを伝えるときは会話だったり、今だとスマホやケータイだったりするね。会話は基本的に声だから形は残らないし、すぐに消えちゃう。それの会話の内容を後々証明してと言われたても手元にないから証明することもできない。スマホやケータイでは形として残るけどそれを書いているのが本当にその本人かどうかはわからない。その分手紙はその人らしさが出たり、実際に形として残る。本人かどうかは筆跡を見ればわかるよね。刑事事件でも使われるくらい筆跡っていうのはその人っていうのが出るんだよ。僕はね、手紙の本質はそこにあると思うんだ。より確実に相手に伝えることができる。形として残り、自分だと言う証明は書いたことが示してくれる。どんな人もそうだと思うけど、大切な気持ちは形を残して正確に相手に届けたいでしょ。前置きが少し長くなったけど書き始めよっか。」

低学年の子たちは自分の言葉を他所にもうすでに書き始めていた。これまでの授業の成果か上級生たちも意外とすらすら書き始める。この授業は書くだけで終わってしまった。書き終わった子もいればまだ書いている子もいる。書き終わることを次回までの宿題することにした。授業終わりにさくらに呼びとめられもう1セット欲しいと言うことだったのでプレゼントした。