3ヶ月後、夏休みも終わる頃、ようやくギブスが外れて、両手が使えるようになった。ギブスを外した時の匂いがあまりに強烈でいつもなら真っ先にくっついてきそうな愛がくっついてこなかった。少し寂しかった。でも不便でならなかった生活がようやく終わると思うとほっとする。今まで片手でしか作業できなかった分、どうしても時間がかかっていた。時間が足りなくて不十分で納得しているところもあったが、これからはしっかりと準備できる。実際ここ数ヶ月は大学在学時よりもやることが増えてはいるが、楽しい。色々と縛りなく自分の好きなことが認められて仕事になっていることが嬉しい。授業も回数を重ねるうちにみんなの反応も保護者の反応も良くなって来ている。今では保護者が子供たちに混じって意見交換を行うまでになっている。自分の授業はどちらかというと保護者ウケの方がいいみたいで、メモを取るのも保護者の人の方が多い。とは言ってもこれまでは最初の授業の内容とあまり変わらない内容ばかりして来た。様々な童話のオチを自分なりに考えることを繰り返し反復する。そろそろ別の内容に移りたいところではあるがその前に仕事がある。今日はめいの初めての撮影があるため、父さんの会社に愛と一緒に向かう。久々の撮影でルンルン気分の愛。愛が撮影の時は自分が必ずつくことになっている。愛が心配なのもあるが、変な虫がつかないように見張っておきたいから。愛の性格の特性上、基本的に人と壁を作らないため、夏の火に群がる虫並に人が寄ってくる。家族として心配というのは会社や人に説明する時の言い訳で、本心はシンプルに不安からくる嫉妬だ。がんじがらめにするつもりはないが束縛してしまっている自覚はある。自分に自信がなく不安だから。改善しなければならないとは思っているが、2人が嫌がってなくむしろついてきて欲しいということが多いからこのままでいいのかなと最近思い始めている。
会社に着くといつもよりお出迎えが多い。基本的に愛にとってはみんな友達。就職先も迷うことなく父さんの会社を選んだ。理由は、みんながいてたのしそうだかららしい。愛の能力ならもう少し選択肢があったとは思うが正直嬉しかった。
「愛、荷物は俺の部屋に置いてきて。」
「了解。今日はルイくんいるの?」
ルイとは会社で唯一いる自分の部下。17歳で高校に通いながら自分の下で働いてくれている。父さんが頻繁に行っている孤児院に服をプレゼントする時の手伝いをしているときに出会った。その当時は不登校でテストの時だけ学校に行き、点数をとって帰ってくる。学校側としたら嫌な感じの生徒だったらしい。こんな感じだから当然友達もいなかった。施設の中でもずっとパソコンをいじっていた。そのときにルイがやっていたのが自作のゲームだった。それもかなりの完成度。例えるなら一般的に売られている1500円くらいのアプリゲーム以上のクオリティーだった。ルイは中学生でプログラミングを完璧に理解していた。自分がルイをこの会社に誘ったのは才能があったのもあるが、このままだと社会に潰されてしまうと感じたから。当時から大人への不信感が大きかったルイ。すぐ近くにいる大人、孤児院の人にも心を開いていなかった。これから生きていく中で、人と関わりを持たないことは不可能。周りを拒絶して自分だけの世界に完全に入ってしまっていた。入ってしまっているうちはいいが、ふと周りを見渡して誰もいないことに気づいてしまうと猛烈な孤独感が襲ってくる。孤独が何よりも辛いことを自分は知っている。しかも、今現在の日本ではある程度学歴が要求されて、さらに不登校の過去があるだけで不合格にしてくる学校や会社がある。そんな価値観が凝り固まって柔軟性のない社会でこの子がうまく生きていけるとは到底思えない。そのときうちにプログラマーがいなかったこともあるので最初はちょうどいいなと思った。それから自分は大学終わりに毎日ルイに会いに行った。最初こそ逃げられたりしたが、自分のしつこさに疲れたのか話を聞いてくれるようになった。たわいないことから踏み込んだ議論まで、ルイとの時間は自分の中でだんだん特別なものになってきた。自分の過去についても話したし、真心や愛との関係も自然に話していた。どんな内容の話でも受け止めるように聞いてくれた。聞いていただけでなくルイ自身のことも話してくれるようになった。その時から自分の前で笑顔を見せてくれるようになった。毎日のように話していたら、ルイの方から自分を雇ってくれと要望があった。もちろん承諾して、孤児院にいることがよほど嫌だったのかルイは孤児院からうちの会社に宿を移した。とは言ってもその当時ルイはまだ中学生で正式に採用することはできなかったので、ひとまず自分の手伝いという名目で会社に住み込んだ。孤児院から中学生の段階で出て行ったことによって、手続きが色々とありルイは佐々木家の人間になった。でも、一緒に住むことは拒んでいた。1人の方が落ち着くし、今から家の中に入っていくのは勇気がいるそうだ。何度も説得したがひとまずルイの意見を尊重して別に暮らしている。家事はほとんど自分が教えたので料理も問題なくできる。というよりほとんどのことが見ただけでできていた。
「今日は、高校があるからいないよ。最近学校も暇で退屈なところじゃなくなってきているみたいだしね。」
ルイは今、父さんの知り合いの高校に通っている。不登校だった子も受け入れてくれるような普通科の私立高校で自分たちの母校でもある。
「そっか。久々に会いたかったな。」
「家族なんだからいつでも会えるさ。今度うちに連れていくから。」
会社内にある自分の部屋につき、2人の荷物を置く。部屋は整理整頓されていて、いつも綺麗。少しでも汚くするとルイが怒るので片付けが苦手な愛でも嫌々ながら整理整頓をする。整理整頓していると先に会社に出社していた真心がめいを連れて入ってきた。入ってくるや否やめいと愛は目を見合わせた。
「めいちゃん?」
「愛ちゃん?」
そういえば誰と仕事をするのかを両方にしてなかった。
「愛も知っていると思うけど今日からモデルの仕事をする沢村めいさんだ。一応年齢もモデルとしての経験も愛の方があるからいろいろと教えてあげてね。」
自分が説明しているのをよそに愛はめいのもとに走っていた。
「なーんだ、めいちゃんだったのか。どんな人か少し心配してたんだ。」
「こっちこそ。初めての仕事なのにいきなり2人での仕事なんて緊張してたの。怖い人だったらどうしようと思って。」
自分は真心のもとに寄る。
「あの2人仲良いの?」
「なんか旅行中に年齢が近いという理由で仲良くなったみたい。旅行中は基本的に2人で行動してたし、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。」
「でも一応、寛のパソコンにメッセージとして送っておいたけど。」
「そういえばここのところ忙しくて、会社のパソコン開いてなかった。」
急いで自分のデスクにあるパソコンを立ち上げると、かなりの量のメッセージが来ていた。これをあとで全て見直さなければいけないと思うとため息が出てくる。自分の確認不足だったことを真心に謝り、仲良く話している2人に横槍を刺す。
「お二人さん仲がいいのはいいことだけどもう少しで撮影の時間になるから移動して。後々、2人の時間はとるからさ。」
愛は剥れていたが早くしないと休みをなくすと警告したら借りてきた猫みたいに大人しくついてきた。
衣装に着替えたり、メイクしたりする2人より先に真心と自分は会社内の撮影スタジオに向かう。既に準備は整っているみたいだ。
「ひかる、遅れてごめん。今着替えているからすぐに始められると思う。」
「おっそい。こっちの準備はもう整っているんだから。」
遅れたと言ってもほんの数分。
「せっかち直さないとルイに嫌われるぞ。」
「わかってないのね。寛にはわからない強い絆で私たちは繋がってるから嫌われることなんてないのよ。それより今日、ルイは?」
「高校だよ。今日は普通の平日だから授業だろ。」
「もう夏休み終わっちゃったの?つまんない。帰ろうかな。」
「仕事なんだからしっかりしてくれ。今日は初めて撮影する子もいるんだから頼むよ。後でお菓子買ってやるから。」
「お菓子で釣れると思うなよ。もう私もいいレディーなんだから。」
「わかったわかった。終わったらルイ呼ぶからそれまで頑張ってくれ。」
「なら仕方なくやってやる。」
話している間に愛たちの準備も終わったみたいで元気よく愛が登場する。お互いに挨拶と自己紹介を済ませて、撮影に入る。
ひかるはうちの専属のカメラマン。本名は桃井ひかる。ルイと同じ孤児院出身で同い年。ルイがうちに来ることを知って、自分も働かせて欲しいと直談判してきた。この時すでにルイを引き取ることは決まっていた。父さん曰く、1人増えようが2人増えようがあまり変わらないとのことで、中学校卒業後、うちで雇うことになった。ひかるの要望で高校には進学せずにカメラマンとして修行したいとの事だったので父さんの伝で知り合いのカメラマンのもとに修行しに行った。修行先の夫婦は子供ができなかったのでひかるを娘として引き取ってもらうことにもなった。ひかるもそこがネックだったみたいで引き取ってもらうことが決まった時に泣いて喜んでいた。しっかりと1年間修行し、あとは実戦でということだったので今年、正式にうちの専属カメラマンとして採用した。ひかるの採用が決まった時にルイが誰よりも喜んでいたことはひかるには内緒。恥ずかしいらしい。
撮影も順調に進み、複数回の着替えを終えて、めいはヘトヘトのようだ。慣れない環境で初めてのことをするのは疲れて当たり前。ひかると愛は今だに飛び跳ねながら撮影をしている。めいは疲れてしまったのか自分の隣に座った。
「疲れたかい?」
「なんであの2人は元気なんですかね。私もう動けないです。」
「初めてにしてはすごい良かったと思うよ。自然な表情も出てたし、愛との息もあってたしね。」
「ありがとうございます。」
「今日はもう終わるから、今度からよろしくね。詳しいことは真心から聞いて。1人での仕事も増えてくるだろうからひかるとは仲良くしてほしいな。」
少し話しているとひかるがめいを呼んだ。仲良くすることは問題ないかな。
スタジオの扉が開く。
「お疲れ様です。」
どうやら、ルイが学校を終え、自分のメッセージを見てきたらしい。
「ルーイー。」
元気よくルイに襲いかかるひかるだが間に自分が入る。
「仕事終わってから。」
「お疲れ様。もう少しだからがんばって。ひかるが仕事している姿も見たいからね。」
ルイが一言ひかるにいうと、少し顔を赤くして飛び跳ねながら急いで撮影に戻る。
「慣れたもんだね。」
「もう何年も一緒ですから。ひかるの行動パターンと喜ぶツボは抑えてるつもりですよ。」
「それにしても久しぶりだね。学校は楽しい?」
メッセージではやりとりはしていたものの直接会うのは久しぶり。正直自分もルイに会いたくてたまらなかった。
「楽しいよ。委員会もしてるし、行事にも参加できてるよ。今度部長になるしね。」
「そうか良かった。」
自分の肩くらいにあるルイの頭を撫でた。どこか嬉しそうに笑ってた。
「兄さん、あの人は新人の人?」
「入社してもう結構経ってるけどまだ会ってなかったの?」
「僕は基本的に兄さんの部屋から出ないから。部活もあるし、みんな退社した後に真心姉さんに鍵を開けてもらってるから。ほとんどの社員とはメッセージでしかやりとりしてないからね。」
「そっか。なら今度から覚えておいて。セキュリティーに関してはルイに一任してるから、そこら辺は重点的に。」
「了解。」
この仕事の関係上、様々な人たちと会うことが多い。自分たち以外で考えるとモデルを頼んでいる人なら尚更。そこには良からぬことを企てる人も多々いる。前に一度、うちのモデルに強引に手を出そうとしたとある会社の御曹司がいた時に社員全員に配っていたタブレットがとても役に立ち、大事にならずにすんだ。もちろんこの会社とはもう契約はしないということで手をうち、悪評がどこからか流れたのかしばらくしてその会社は潰れた。今後そんなことのないようにルイに特殊なセキュリティソフトを作ってもらい、とある言葉に反応して録音を開始する機能をつけた。その録画はすぐに自分とルイの元に送られて、スイッチ1つで通報と場所の特定ができる。こう言った知識は自分にはあまりないがこのソフトを2ヶ月で作り上げたルイは本当にすごいのかもしれない。
ルイが来てから周りが引くくらい気合の入ったひかるは高速で仕事を終わらせた。終わらせるや否やダッシュでルイのもとに駆け寄った。
「ひかる、終わったのはいいけど、ちゃんと撮れてるだろうな。」
「疑ってんの?もう2人が写真選んでるから一緒に見てくれば。」
うちの雑誌に記載する写真は基本的にモデル本人に選んでもらっている。自分が一番輝いている顔は自分が一番理解してると思うから。モデル地震のモチベーションのアップにもつながる。愛とめいは仲良くキャッキャいいながら写真を選んでいるから問題はなさそうだ。
「2人の様子見てると大丈夫そうだからもう今日は終わりにしていいよ。そろそろ自分たちはお邪魔みたいなんで退散しようかな。」
作業をしていた真心を連れて騒いでる2人のもとに向かった。2人の世界を邪魔しちゃ悪いからね。
会社に着くといつもよりお出迎えが多い。基本的に愛にとってはみんな友達。就職先も迷うことなく父さんの会社を選んだ。理由は、みんながいてたのしそうだかららしい。愛の能力ならもう少し選択肢があったとは思うが正直嬉しかった。
「愛、荷物は俺の部屋に置いてきて。」
「了解。今日はルイくんいるの?」
ルイとは会社で唯一いる自分の部下。17歳で高校に通いながら自分の下で働いてくれている。父さんが頻繁に行っている孤児院に服をプレゼントする時の手伝いをしているときに出会った。その当時は不登校でテストの時だけ学校に行き、点数をとって帰ってくる。学校側としたら嫌な感じの生徒だったらしい。こんな感じだから当然友達もいなかった。施設の中でもずっとパソコンをいじっていた。そのときにルイがやっていたのが自作のゲームだった。それもかなりの完成度。例えるなら一般的に売られている1500円くらいのアプリゲーム以上のクオリティーだった。ルイは中学生でプログラミングを完璧に理解していた。自分がルイをこの会社に誘ったのは才能があったのもあるが、このままだと社会に潰されてしまうと感じたから。当時から大人への不信感が大きかったルイ。すぐ近くにいる大人、孤児院の人にも心を開いていなかった。これから生きていく中で、人と関わりを持たないことは不可能。周りを拒絶して自分だけの世界に完全に入ってしまっていた。入ってしまっているうちはいいが、ふと周りを見渡して誰もいないことに気づいてしまうと猛烈な孤独感が襲ってくる。孤独が何よりも辛いことを自分は知っている。しかも、今現在の日本ではある程度学歴が要求されて、さらに不登校の過去があるだけで不合格にしてくる学校や会社がある。そんな価値観が凝り固まって柔軟性のない社会でこの子がうまく生きていけるとは到底思えない。そのときうちにプログラマーがいなかったこともあるので最初はちょうどいいなと思った。それから自分は大学終わりに毎日ルイに会いに行った。最初こそ逃げられたりしたが、自分のしつこさに疲れたのか話を聞いてくれるようになった。たわいないことから踏み込んだ議論まで、ルイとの時間は自分の中でだんだん特別なものになってきた。自分の過去についても話したし、真心や愛との関係も自然に話していた。どんな内容の話でも受け止めるように聞いてくれた。聞いていただけでなくルイ自身のことも話してくれるようになった。その時から自分の前で笑顔を見せてくれるようになった。毎日のように話していたら、ルイの方から自分を雇ってくれと要望があった。もちろん承諾して、孤児院にいることがよほど嫌だったのかルイは孤児院からうちの会社に宿を移した。とは言ってもその当時ルイはまだ中学生で正式に採用することはできなかったので、ひとまず自分の手伝いという名目で会社に住み込んだ。孤児院から中学生の段階で出て行ったことによって、手続きが色々とありルイは佐々木家の人間になった。でも、一緒に住むことは拒んでいた。1人の方が落ち着くし、今から家の中に入っていくのは勇気がいるそうだ。何度も説得したがひとまずルイの意見を尊重して別に暮らしている。家事はほとんど自分が教えたので料理も問題なくできる。というよりほとんどのことが見ただけでできていた。
「今日は、高校があるからいないよ。最近学校も暇で退屈なところじゃなくなってきているみたいだしね。」
ルイは今、父さんの知り合いの高校に通っている。不登校だった子も受け入れてくれるような普通科の私立高校で自分たちの母校でもある。
「そっか。久々に会いたかったな。」
「家族なんだからいつでも会えるさ。今度うちに連れていくから。」
会社内にある自分の部屋につき、2人の荷物を置く。部屋は整理整頓されていて、いつも綺麗。少しでも汚くするとルイが怒るので片付けが苦手な愛でも嫌々ながら整理整頓をする。整理整頓していると先に会社に出社していた真心がめいを連れて入ってきた。入ってくるや否やめいと愛は目を見合わせた。
「めいちゃん?」
「愛ちゃん?」
そういえば誰と仕事をするのかを両方にしてなかった。
「愛も知っていると思うけど今日からモデルの仕事をする沢村めいさんだ。一応年齢もモデルとしての経験も愛の方があるからいろいろと教えてあげてね。」
自分が説明しているのをよそに愛はめいのもとに走っていた。
「なーんだ、めいちゃんだったのか。どんな人か少し心配してたんだ。」
「こっちこそ。初めての仕事なのにいきなり2人での仕事なんて緊張してたの。怖い人だったらどうしようと思って。」
自分は真心のもとに寄る。
「あの2人仲良いの?」
「なんか旅行中に年齢が近いという理由で仲良くなったみたい。旅行中は基本的に2人で行動してたし、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。」
「でも一応、寛のパソコンにメッセージとして送っておいたけど。」
「そういえばここのところ忙しくて、会社のパソコン開いてなかった。」
急いで自分のデスクにあるパソコンを立ち上げると、かなりの量のメッセージが来ていた。これをあとで全て見直さなければいけないと思うとため息が出てくる。自分の確認不足だったことを真心に謝り、仲良く話している2人に横槍を刺す。
「お二人さん仲がいいのはいいことだけどもう少しで撮影の時間になるから移動して。後々、2人の時間はとるからさ。」
愛は剥れていたが早くしないと休みをなくすと警告したら借りてきた猫みたいに大人しくついてきた。
衣装に着替えたり、メイクしたりする2人より先に真心と自分は会社内の撮影スタジオに向かう。既に準備は整っているみたいだ。
「ひかる、遅れてごめん。今着替えているからすぐに始められると思う。」
「おっそい。こっちの準備はもう整っているんだから。」
遅れたと言ってもほんの数分。
「せっかち直さないとルイに嫌われるぞ。」
「わかってないのね。寛にはわからない強い絆で私たちは繋がってるから嫌われることなんてないのよ。それより今日、ルイは?」
「高校だよ。今日は普通の平日だから授業だろ。」
「もう夏休み終わっちゃったの?つまんない。帰ろうかな。」
「仕事なんだからしっかりしてくれ。今日は初めて撮影する子もいるんだから頼むよ。後でお菓子買ってやるから。」
「お菓子で釣れると思うなよ。もう私もいいレディーなんだから。」
「わかったわかった。終わったらルイ呼ぶからそれまで頑張ってくれ。」
「なら仕方なくやってやる。」
話している間に愛たちの準備も終わったみたいで元気よく愛が登場する。お互いに挨拶と自己紹介を済ませて、撮影に入る。
ひかるはうちの専属のカメラマン。本名は桃井ひかる。ルイと同じ孤児院出身で同い年。ルイがうちに来ることを知って、自分も働かせて欲しいと直談判してきた。この時すでにルイを引き取ることは決まっていた。父さん曰く、1人増えようが2人増えようがあまり変わらないとのことで、中学校卒業後、うちで雇うことになった。ひかるの要望で高校には進学せずにカメラマンとして修行したいとの事だったので父さんの伝で知り合いのカメラマンのもとに修行しに行った。修行先の夫婦は子供ができなかったのでひかるを娘として引き取ってもらうことにもなった。ひかるもそこがネックだったみたいで引き取ってもらうことが決まった時に泣いて喜んでいた。しっかりと1年間修行し、あとは実戦でということだったので今年、正式にうちの専属カメラマンとして採用した。ひかるの採用が決まった時にルイが誰よりも喜んでいたことはひかるには内緒。恥ずかしいらしい。
撮影も順調に進み、複数回の着替えを終えて、めいはヘトヘトのようだ。慣れない環境で初めてのことをするのは疲れて当たり前。ひかると愛は今だに飛び跳ねながら撮影をしている。めいは疲れてしまったのか自分の隣に座った。
「疲れたかい?」
「なんであの2人は元気なんですかね。私もう動けないです。」
「初めてにしてはすごい良かったと思うよ。自然な表情も出てたし、愛との息もあってたしね。」
「ありがとうございます。」
「今日はもう終わるから、今度からよろしくね。詳しいことは真心から聞いて。1人での仕事も増えてくるだろうからひかるとは仲良くしてほしいな。」
少し話しているとひかるがめいを呼んだ。仲良くすることは問題ないかな。
スタジオの扉が開く。
「お疲れ様です。」
どうやら、ルイが学校を終え、自分のメッセージを見てきたらしい。
「ルーイー。」
元気よくルイに襲いかかるひかるだが間に自分が入る。
「仕事終わってから。」
「お疲れ様。もう少しだからがんばって。ひかるが仕事している姿も見たいからね。」
ルイが一言ひかるにいうと、少し顔を赤くして飛び跳ねながら急いで撮影に戻る。
「慣れたもんだね。」
「もう何年も一緒ですから。ひかるの行動パターンと喜ぶツボは抑えてるつもりですよ。」
「それにしても久しぶりだね。学校は楽しい?」
メッセージではやりとりはしていたものの直接会うのは久しぶり。正直自分もルイに会いたくてたまらなかった。
「楽しいよ。委員会もしてるし、行事にも参加できてるよ。今度部長になるしね。」
「そうか良かった。」
自分の肩くらいにあるルイの頭を撫でた。どこか嬉しそうに笑ってた。
「兄さん、あの人は新人の人?」
「入社してもう結構経ってるけどまだ会ってなかったの?」
「僕は基本的に兄さんの部屋から出ないから。部活もあるし、みんな退社した後に真心姉さんに鍵を開けてもらってるから。ほとんどの社員とはメッセージでしかやりとりしてないからね。」
「そっか。なら今度から覚えておいて。セキュリティーに関してはルイに一任してるから、そこら辺は重点的に。」
「了解。」
この仕事の関係上、様々な人たちと会うことが多い。自分たち以外で考えるとモデルを頼んでいる人なら尚更。そこには良からぬことを企てる人も多々いる。前に一度、うちのモデルに強引に手を出そうとしたとある会社の御曹司がいた時に社員全員に配っていたタブレットがとても役に立ち、大事にならずにすんだ。もちろんこの会社とはもう契約はしないということで手をうち、悪評がどこからか流れたのかしばらくしてその会社は潰れた。今後そんなことのないようにルイに特殊なセキュリティソフトを作ってもらい、とある言葉に反応して録音を開始する機能をつけた。その録画はすぐに自分とルイの元に送られて、スイッチ1つで通報と場所の特定ができる。こう言った知識は自分にはあまりないがこのソフトを2ヶ月で作り上げたルイは本当にすごいのかもしれない。
ルイが来てから周りが引くくらい気合の入ったひかるは高速で仕事を終わらせた。終わらせるや否やダッシュでルイのもとに駆け寄った。
「ひかる、終わったのはいいけど、ちゃんと撮れてるだろうな。」
「疑ってんの?もう2人が写真選んでるから一緒に見てくれば。」
うちの雑誌に記載する写真は基本的にモデル本人に選んでもらっている。自分が一番輝いている顔は自分が一番理解してると思うから。モデル地震のモチベーションのアップにもつながる。愛とめいは仲良くキャッキャいいながら写真を選んでいるから問題はなさそうだ。
「2人の様子見てると大丈夫そうだからもう今日は終わりにしていいよ。そろそろ自分たちはお邪魔みたいなんで退散しようかな。」
作業をしていた真心を連れて騒いでる2人のもとに向かった。2人の世界を邪魔しちゃ悪いからね。