そこから2週間後、花屋にいると、

「先生早くきて。」

血相を変え、涙目の隼人が来店した。

「どうした?血相変えて。」

「さくらが、さくらが。」

頭の中がパニックになってまともに話せてはいなかった。でも、隼人の表情である程さくらの状況を察することができた。

「結さん。すいません、いってきます。」

店を結さんと愛に任せて、パニックになっている隼人を連れて急いで病院に向かった。さくらの病室に向かうと慌ただしく先生方が処置に当たっていた。緊急の処置を終えて急いで何人かの医師と集中治療室に向かって行った。日向さんもその場にいて隼人に向かって話し始めた。

「さくらちゃんの発作が起きたときに一番近くにいたのは君なんだ。どんな状況だったか話してくれるかな?」

隼人は呼吸を荒くして一点を見つめ黙ったままだった。

「すいません日向さん、自分が少し隼人を落ち着かせます。話を聞いておくので、早くさくらの処置に向かってください。」

「悪い。任せたよ。」

そういって、日向さんは急いで集中治療室に向かっていた。

「隼人一先ず座ろうか。何か飲むもの買ってくるから大人しく座っていて。」

近くにある長椅子に隼人を座らせ、自分は急いで飲むものを買って、隼人のもとに戻った。戻ると隼人は顔に手を押さえて鼻を啜っていた。

「飲み物買ってきたよ。少しでも落ち着いたらでいいから話してくれるか?さっきの状況を。」

背中をさすりながら、隼人が少し落ち着くのを待った。

しばらくして、隼人の呼吸が落ち着いてきた。

「落ち着いてきたか?」

隼人は少しだけうなずいた。

「なら、あのときの状況を話してくれないか?これからさくらの命を守るために必要なことかもしれないんだ。」

少しの空白があった。自分が買ってきた飲み物に口をつけ、隼人は重い口を開いた。

「突然だったんだ。いつも通りにさくらの病室で話していたら急に苦しみだして。どうしたらいいか分からなくなって病室を抜け出してナース室に人を呼びに急いで行った。そしたら医院長先生と会って。」

隼人は目にたまる涙を抑えることができていなかった。そのときのことが頭の中で再生されて耐えきれず再び顔を手で隠した。

「わかった。そこまででいいよ。日向さんには自分から伝えるから。ありがとう。そこで待ってて。」

そう隼人に伝え、急いでその場を離れた。集中治療室に向かうと日向さんが出てきた。

「どうでしたか?」

「一命はなんとか。」

「そうですか。隼人から状況を少しだけ聞いてきました。」

「わかった。ここだと邪魔になるから場所を移そう。」

話をするため日向さんに連れられ医院長室に向かった。自分が隼人から聞き出せたことは伝えた。

「そうか。おそらく僕と会った後に君を呼びに行ったんだね。隼人君には少し酷な状況を見せてしまったのかもしれないね。」

「そうですね。こればかりは不運としか言いようがないです。」

自分が俯くと日向さんが、

「君が責任を感じることではないよ。本当にどうしようもなかったんだ。」

「いやもう少し何か言葉をかけてあげれたのかなって思ってしまって。隼人にかけた言葉が正解だったかどうか。」

「そんなの分からないよ。信頼関係ができている君以外の他の誰かが今の彼に言葉をかけたとしてもきっと届きはしないだろう。どう転ぶか分からない状況だけど今の彼に何も言葉をかけないのはよくない。どんな言葉であったとしても君以外届けることができなかったならその言葉が正解なのか不正解なのかは分からない。」

自分は黙ってしまった。

「そんな君が今ここにいていいとは僕は思わないよ。行くべきところ、必要としているところがあるんじゃないかな?」

「そうですね。」

そう言って医院長室を後にし、急いで隼人のもとに向かった。隼人のもとに戻るとまだ顔を伏せたままだった。

「隼人。日向さんに伝えてきたよ。」

自分が戻ってきたことに気づくと顔を上げ自分に迫ってきた。

「さくらは?さくらはどうだった?」

「一命はなんとか取り留めたみたいだけどしばらくは集中治療室にいなきゃいけないだって。」

「大丈夫なんだよね?」

少しだけ間があった。

「それはなんとも言えない。先生方を信じるしかない。」

隼人は泣きそうな顔を再び伏せた。隼人の悲しそうな顔を見たときにここは大丈夫だっていうべきだったのか、少し悩んだ。自分の言葉に責任が取れない以上真実を伝えるしかなかった。

「信じて待つことしかできないよ。戻ってきたときに笑顔で迎えてやらなきゃ。そんな顔している隼人のことさくらは見たくないと思うぞ。」

こんな言葉しかかけられない自分に嫌気がした。非公式ではあるけど自分はこの子の教師なのに。