彼岸花
ヒガンバナ科ヒガンバナ属
開花期 7月から10月
花言葉 情熱、悲しい思い出、また会う日をたのしみに
俄雨。ゴールデンウィークの中頃の梅雨前、気分も天気も何かはっきりしない。五月病が流行りだす時期。天気もこんなだと流石に気が落ち込むのもわかる。ただでさえ新しい環境でストレスが溜まっているこの時期に雨ばかりだと辛い。アメリカなどでは9月スタートのことが多いらしいがそうしたら五月病のような症状は出なくなるのだろうか。そうなったらなったで十月病が流行りそうだが。この時期は愛と父さん以外は元気がない。他はもれなく偏頭痛持ちだからだ。低気圧が来たり、台風が来るとどうも頭が痛くなる。一番ひどいのは真心で3日間は苦しむ。ひどい頭痛と吐き気が襲って起き上がることも困難になる。自分はそこまでひどい方ではないがどことなく体がだるい。頭痛薬を飲んでようやく行動できる。偏頭痛はストレスがかかる環境下に長い間置かれたり、遺伝だったりで発症するらしい。母さんと真心は後者で、自分はおそらく前者。光や音、匂いで症状がひどくなったりもする。最近では天気と偏頭痛は関係ないという説が有力らしいが痛いもんは痛い。今日も日本海側で大きな低気圧があるため絶賛偏頭痛中だ。幸いにも土曜日だったため仕事場には迷惑はかけずに済むし、真心の面倒が見ることができる。
「真心、大丈夫?」
骨折の痛み止めのためにもらった薬を服用して、一番心配な真心のところに向かった。カーテンは閉めきっていて、光が入らないようにしていた。真心の看病は主に自分がする。父さんは忙しくて看れない、元看護師の母さんも偏頭痛持ちのためあまり体調は良くはない、愛は少し声が高くて頭に響くらしい。あと、少し雑。消去法で自分しかいなくなるわけだ。まあ、料理も作れるし、力もあるからある意味適任ではある。
「大丈夫じゃない。」
真心から返答があり、ベットの横に着く。持ってきた頭痛薬と水を飲ませて、少しだけ体を起こす。
「吐き気はない?」
「まだ大丈夫。汗かいて気持ち悪い。体拭きたい。」
要望に応えるため、タオルとぬるま湯、それと着替えを用意する。骨折して1週間、かなりこの生活にも慣れてきた。まだ不便なところがあるとすれば、物を支えられないことくらい。ものを安定して支えるためには左手の助けが必要だと骨折して知った。骨折している左腕にタオルと着替えをかけ、右腕に桶に入れたぬるま湯を持った。部屋に戻ると真心はまだ服を着ていた。
「どうしたの服脱がないと体拭くことできないじゃん。」
顔を赤くして、脱ぐのをためらっている。
「熱でもあるの?触った感じはないけど?」
「違う。恥ずかしいから自分でやる。」
あぁ、そういうこと。なるほどね。
「そうか。なら外で待ってるから、終わったら呼んで。」
そういって自分は部屋から出た。一応家族なんだから別に恥ずかしがらなくてじゃんと思っていたが、母さんいわくそれとこれとは訳が違うらしい。だから、あんたは2人以外にモテないんだよと笑われた。別に自分は真心と愛がいればいいのでノーダメージだ。
「終わった。」
扉の近くで真心が声をかけてきた。今回はあまり酷くはないみたいだ。立って動けてる。まだ足元は少しふらついているが。
「何か食べる?」
「食べる。」
真心を器用におぶって1階のソファーに座らせる。流石に骨折した状態で包丁を持つのは危険なので冷凍保存したご飯を解凍して沸騰したお湯の中に入れ、卵を回し入れて簡単なタマゴ粥を作った。体調の悪い時はただのおかゆより、卵を入れたほうが栄養価が高く、体にいい。あとは、梅干しと少しの塩。簡単なので10分くらいでできた。
「できたよ。自分で食べれる?」
「食べさせてほしい。」
真心は2人の時と、体調が悪い時はいつも以上に大胆になる。いつもだと何も言わずに、他の人から見ればクールでミステリアスな女性に見える。仕事もできるし、行動も早い。だが、そう見えるのは一生懸命で我慢しているだけ。愛がいればお姉ちゃんとして、会社では上司としての役職に忠実に従っているだけ。自分と2人の時は我慢の制限が切れてだいたいこうなる。真心は愛にバレていないと思っているらしいが正直我慢しているのがバレバレのため近い人には気づかれている。頑張って我慢している姿が可愛いと真心の部下の中では癒しの対象になっているらしい。自分が月に一度出勤すると真心の部下から色々と話を聞く。真心の仕事は父さんのマネイジメントとモデル。うちのブランドの服はほとんどうちの社員がモデルを務める。モデルさんのスケジュールを気にすることないし、内部の人間がやることでコスト削減にもなる。後、世にいるモデルの人はあまりにもスタイル、ルックスが良すぎて服を買うときの参考にならない。一般の会社員が着ることで親近感を持ってもらう。うちのブランドでは最初はモデルとして雇うわけではないが、自分が目をつけた人にだけモデルの仕事も併用して行ってもらっている。もちろんモデルの仕事が増える分、普段の業務は減らして、給料も上げている。真心はスタイルもルックスもいいのでモデルには適任である。無口でミステリアスな雰囲気があるためかなかなか好評だ。たまに自分が顔を出すと笑顔を見せることがあり、それが撮影現場ではえらく好評で、撮影の邪魔にならないように真心の部下も後ろからスマホで真心のことを撮っている。
茶碗一杯のタマゴ粥をフゥフゥと冷やし、真心の口に運ぶ。体調が悪いにも関わらず、今できる全力の笑顔で自分に応えてくれる。半分ほどを食べ終わった頃に食べ物の匂いを嗅ぎつけた母さんが姿を現した。
「美味しそうね。私も食べたい。」
「だったら作るから少し待ってて。真心、はい。」
少し浮かない顔をしていていた。
「大丈夫だよ。もう自分で食べられる。」
真心は自分で食べ始めた。真心の気持ちを察した自分は真心の頭を撫でたあと、母さんの近くに行った。すると母さんが小声で、
「なんか邪魔しちゃった?」
「そうだね。真心が人前で甘えられないの知ってるくせに。」
「悪いことしちゃったわね。」
「いいよ。作るからそこに座ってて。」
母さんは少しシュンッとしていた。母さんも真心の性格はわかっているため、少し反省しているのだろう。まあ、食べ物を出せばある程度機嫌がなおるので問題ない。真心も家族なんだから気を使うこともないのにとは思うが自分にしか見せない顔があることに少しだけ優越感を感じることもある。
「できたよ。暑いから気をつけて食べて。」
母さんの分のタマゴ粥を作り終えて、母さんの前に提供する。
「私は食べさせてくれないのね。」
「母さんそこまで体調悪くないでしょ。自分で食べれる人は食べるの。」
母さんの相手を少しだけして真心の元に向かった。真心はもうすでに食べ終わっており、ソファーの前に体育座りして毛布に包まっていた。
「食べ終わった?」
「うん。美味しかった。ありがとう。」
「よかった。少しは楽になった?」
「うん。薬も効いてきて眠たくなってきた。」
確かに真心は少しウトウトし始めていた。ご飯を食べて体温が上がってきたのと、偏頭痛の薬の影響で眠たくなってきたのだろう。
「じゃあまた連れて行くから、後ろに乗って。」
真心の体温を背中に感じながら母さんの方を見た。
「器用に担ぐのね。左手使えないのに。」
「真心が軽いからね。しっかりと自分に体重をかけてくれて安定するから。」
「そう。真心、今日一日寛にしっかりと甘えて、元気になりなね。」
自分の肩の上にある顔の温度が上がった気がした。赤くなっているのだろうか。返事はなかったがさっきよりも腕の力が強くなった。
「じゃあ、寝よっか。」
真心は頷いた。母さんは熱々言いながらタマゴ粥を食べている。少し楽しそうだった。
真心をベットに寝かせ、近くに座る。真心からのお願いでしばらく手を繋いでいた。両手が使えないのでしばらく何もできなかった。真心が寝始めると手を離し、片付けをしに下に降りた。しかし、片付けは母さんがすでにしていた。
「片付けはしておいたよ。怪我人だし、真心にさっきは悪いことしちゃったから。ほらあんたはさっさと真心の部屋に行って面倒見なさい。」
「ありがと。助かったよ。」
洗い物も片手でできることは限られている。真心や愛も手伝ってくれている。自分が骨折して一番負担をかけてしまっているのは母さんだろう。仕事に影響が出てないのが唯一の救いだが明らかに疲れが見える。母さんには感謝しかない。
「怪我人は変な気を使わずにさっさと怪我を治すの。せっかくの休みなんだからこれからのためにいっぱい休みなさい。」
自分が考えていたことを見透かすように母さんは言ってきた。顔にでも出てたのかな。
「そうだね。じゃあ真心のとこ行くわ。」
リビングを後にして、真心の部屋に戻った。真心は壁に背を向け丸まって寝ていた。真心のそばに座り、再び手を握り直した。自分の手を握る力が強くなった。
「おかえり。」
「起きてたか。」
「寝たと思ったらすぐにどこか行っちゃうから。」
手を繋いだまま真心は体を起こして自分の前に座った。
「Tシャツきてくれてるんだね。これはお父さんのやつかな。」
「せっかくおみあげで買ってきてもらったしね。もらった時は驚いたけど。」
このTシャツは真心たちが父さんについていったヨーロッパでのおみあげだ。3人ともいわゆる『I Love Tシャツ』というやつで地名は違ったが、ものの見事にかぶっていた。3人とも相手が何を買っているかわからない状況だったらしく、自分にお土産をあげるときに家族全員で笑った。
「面白かったよね。まさかだった。」
「とてもファッションの仕事している人間とは思えないセンスだったよ。3人とも本当仲良いよね。」
「ここまでくると少し怖いけどね。」
真心との時間はいつもゆっくり流れる感じがする。真心の声のトーンとか、雰囲気がそうさせるのかもしれない。みんなで笑いあって少しうるさくしてしまうのも自分は好きだが、この静かな感じも好きだ。真心と自分にしか作れない空間で、他の人とはこうはならない。真心が自分の足の間にちょこんと座る。
「左手、さわれない。」
「折れてるからね。」
「早く治してね。」
「わかったよ。頑張るね。」
真心は手が好きらしい。手を繋いだり、手のひらに文字を書いたり。自分の近くにいる時は常に触ってくる。大きくて、暖かくて、包まれている感じで安心するらしい。こうして話している最中もずっと触っている。そうしているうちに再び真心はウトウトし始めた・
「眠たくなってきた?今日は午後から病院に行かなきゃいけないからあまり無理しないでね。」
「ギリギリまでこうしてる。もし眠ちゃっても時間までは一緒にいて。」
「わかった。じゃあ後1時間だけね。」
そういうと真心は体も向きを変えて自分の肩に顔をのせた。優しい香りが鼻腔をくすぐる。落ち着く。
1時間はすぐにたってしまい、いつの間にか真心は寝てしまっていた。そのまま真心を布団に優しく寝かせた。自室に戻って、服を着替えた。
ヒガンバナ科ヒガンバナ属
開花期 7月から10月
花言葉 情熱、悲しい思い出、また会う日をたのしみに
俄雨。ゴールデンウィークの中頃の梅雨前、気分も天気も何かはっきりしない。五月病が流行りだす時期。天気もこんなだと流石に気が落ち込むのもわかる。ただでさえ新しい環境でストレスが溜まっているこの時期に雨ばかりだと辛い。アメリカなどでは9月スタートのことが多いらしいがそうしたら五月病のような症状は出なくなるのだろうか。そうなったらなったで十月病が流行りそうだが。この時期は愛と父さん以外は元気がない。他はもれなく偏頭痛持ちだからだ。低気圧が来たり、台風が来るとどうも頭が痛くなる。一番ひどいのは真心で3日間は苦しむ。ひどい頭痛と吐き気が襲って起き上がることも困難になる。自分はそこまでひどい方ではないがどことなく体がだるい。頭痛薬を飲んでようやく行動できる。偏頭痛はストレスがかかる環境下に長い間置かれたり、遺伝だったりで発症するらしい。母さんと真心は後者で、自分はおそらく前者。光や音、匂いで症状がひどくなったりもする。最近では天気と偏頭痛は関係ないという説が有力らしいが痛いもんは痛い。今日も日本海側で大きな低気圧があるため絶賛偏頭痛中だ。幸いにも土曜日だったため仕事場には迷惑はかけずに済むし、真心の面倒が見ることができる。
「真心、大丈夫?」
骨折の痛み止めのためにもらった薬を服用して、一番心配な真心のところに向かった。カーテンは閉めきっていて、光が入らないようにしていた。真心の看病は主に自分がする。父さんは忙しくて看れない、元看護師の母さんも偏頭痛持ちのためあまり体調は良くはない、愛は少し声が高くて頭に響くらしい。あと、少し雑。消去法で自分しかいなくなるわけだ。まあ、料理も作れるし、力もあるからある意味適任ではある。
「大丈夫じゃない。」
真心から返答があり、ベットの横に着く。持ってきた頭痛薬と水を飲ませて、少しだけ体を起こす。
「吐き気はない?」
「まだ大丈夫。汗かいて気持ち悪い。体拭きたい。」
要望に応えるため、タオルとぬるま湯、それと着替えを用意する。骨折して1週間、かなりこの生活にも慣れてきた。まだ不便なところがあるとすれば、物を支えられないことくらい。ものを安定して支えるためには左手の助けが必要だと骨折して知った。骨折している左腕にタオルと着替えをかけ、右腕に桶に入れたぬるま湯を持った。部屋に戻ると真心はまだ服を着ていた。
「どうしたの服脱がないと体拭くことできないじゃん。」
顔を赤くして、脱ぐのをためらっている。
「熱でもあるの?触った感じはないけど?」
「違う。恥ずかしいから自分でやる。」
あぁ、そういうこと。なるほどね。
「そうか。なら外で待ってるから、終わったら呼んで。」
そういって自分は部屋から出た。一応家族なんだから別に恥ずかしがらなくてじゃんと思っていたが、母さんいわくそれとこれとは訳が違うらしい。だから、あんたは2人以外にモテないんだよと笑われた。別に自分は真心と愛がいればいいのでノーダメージだ。
「終わった。」
扉の近くで真心が声をかけてきた。今回はあまり酷くはないみたいだ。立って動けてる。まだ足元は少しふらついているが。
「何か食べる?」
「食べる。」
真心を器用におぶって1階のソファーに座らせる。流石に骨折した状態で包丁を持つのは危険なので冷凍保存したご飯を解凍して沸騰したお湯の中に入れ、卵を回し入れて簡単なタマゴ粥を作った。体調の悪い時はただのおかゆより、卵を入れたほうが栄養価が高く、体にいい。あとは、梅干しと少しの塩。簡単なので10分くらいでできた。
「できたよ。自分で食べれる?」
「食べさせてほしい。」
真心は2人の時と、体調が悪い時はいつも以上に大胆になる。いつもだと何も言わずに、他の人から見ればクールでミステリアスな女性に見える。仕事もできるし、行動も早い。だが、そう見えるのは一生懸命で我慢しているだけ。愛がいればお姉ちゃんとして、会社では上司としての役職に忠実に従っているだけ。自分と2人の時は我慢の制限が切れてだいたいこうなる。真心は愛にバレていないと思っているらしいが正直我慢しているのがバレバレのため近い人には気づかれている。頑張って我慢している姿が可愛いと真心の部下の中では癒しの対象になっているらしい。自分が月に一度出勤すると真心の部下から色々と話を聞く。真心の仕事は父さんのマネイジメントとモデル。うちのブランドの服はほとんどうちの社員がモデルを務める。モデルさんのスケジュールを気にすることないし、内部の人間がやることでコスト削減にもなる。後、世にいるモデルの人はあまりにもスタイル、ルックスが良すぎて服を買うときの参考にならない。一般の会社員が着ることで親近感を持ってもらう。うちのブランドでは最初はモデルとして雇うわけではないが、自分が目をつけた人にだけモデルの仕事も併用して行ってもらっている。もちろんモデルの仕事が増える分、普段の業務は減らして、給料も上げている。真心はスタイルもルックスもいいのでモデルには適任である。無口でミステリアスな雰囲気があるためかなかなか好評だ。たまに自分が顔を出すと笑顔を見せることがあり、それが撮影現場ではえらく好評で、撮影の邪魔にならないように真心の部下も後ろからスマホで真心のことを撮っている。
茶碗一杯のタマゴ粥をフゥフゥと冷やし、真心の口に運ぶ。体調が悪いにも関わらず、今できる全力の笑顔で自分に応えてくれる。半分ほどを食べ終わった頃に食べ物の匂いを嗅ぎつけた母さんが姿を現した。
「美味しそうね。私も食べたい。」
「だったら作るから少し待ってて。真心、はい。」
少し浮かない顔をしていていた。
「大丈夫だよ。もう自分で食べられる。」
真心は自分で食べ始めた。真心の気持ちを察した自分は真心の頭を撫でたあと、母さんの近くに行った。すると母さんが小声で、
「なんか邪魔しちゃった?」
「そうだね。真心が人前で甘えられないの知ってるくせに。」
「悪いことしちゃったわね。」
「いいよ。作るからそこに座ってて。」
母さんは少しシュンッとしていた。母さんも真心の性格はわかっているため、少し反省しているのだろう。まあ、食べ物を出せばある程度機嫌がなおるので問題ない。真心も家族なんだから気を使うこともないのにとは思うが自分にしか見せない顔があることに少しだけ優越感を感じることもある。
「できたよ。暑いから気をつけて食べて。」
母さんの分のタマゴ粥を作り終えて、母さんの前に提供する。
「私は食べさせてくれないのね。」
「母さんそこまで体調悪くないでしょ。自分で食べれる人は食べるの。」
母さんの相手を少しだけして真心の元に向かった。真心はもうすでに食べ終わっており、ソファーの前に体育座りして毛布に包まっていた。
「食べ終わった?」
「うん。美味しかった。ありがとう。」
「よかった。少しは楽になった?」
「うん。薬も効いてきて眠たくなってきた。」
確かに真心は少しウトウトし始めていた。ご飯を食べて体温が上がってきたのと、偏頭痛の薬の影響で眠たくなってきたのだろう。
「じゃあまた連れて行くから、後ろに乗って。」
真心の体温を背中に感じながら母さんの方を見た。
「器用に担ぐのね。左手使えないのに。」
「真心が軽いからね。しっかりと自分に体重をかけてくれて安定するから。」
「そう。真心、今日一日寛にしっかりと甘えて、元気になりなね。」
自分の肩の上にある顔の温度が上がった気がした。赤くなっているのだろうか。返事はなかったがさっきよりも腕の力が強くなった。
「じゃあ、寝よっか。」
真心は頷いた。母さんは熱々言いながらタマゴ粥を食べている。少し楽しそうだった。
真心をベットに寝かせ、近くに座る。真心からのお願いでしばらく手を繋いでいた。両手が使えないのでしばらく何もできなかった。真心が寝始めると手を離し、片付けをしに下に降りた。しかし、片付けは母さんがすでにしていた。
「片付けはしておいたよ。怪我人だし、真心にさっきは悪いことしちゃったから。ほらあんたはさっさと真心の部屋に行って面倒見なさい。」
「ありがと。助かったよ。」
洗い物も片手でできることは限られている。真心や愛も手伝ってくれている。自分が骨折して一番負担をかけてしまっているのは母さんだろう。仕事に影響が出てないのが唯一の救いだが明らかに疲れが見える。母さんには感謝しかない。
「怪我人は変な気を使わずにさっさと怪我を治すの。せっかくの休みなんだからこれからのためにいっぱい休みなさい。」
自分が考えていたことを見透かすように母さんは言ってきた。顔にでも出てたのかな。
「そうだね。じゃあ真心のとこ行くわ。」
リビングを後にして、真心の部屋に戻った。真心は壁に背を向け丸まって寝ていた。真心のそばに座り、再び手を握り直した。自分の手を握る力が強くなった。
「おかえり。」
「起きてたか。」
「寝たと思ったらすぐにどこか行っちゃうから。」
手を繋いだまま真心は体を起こして自分の前に座った。
「Tシャツきてくれてるんだね。これはお父さんのやつかな。」
「せっかくおみあげで買ってきてもらったしね。もらった時は驚いたけど。」
このTシャツは真心たちが父さんについていったヨーロッパでのおみあげだ。3人ともいわゆる『I Love Tシャツ』というやつで地名は違ったが、ものの見事にかぶっていた。3人とも相手が何を買っているかわからない状況だったらしく、自分にお土産をあげるときに家族全員で笑った。
「面白かったよね。まさかだった。」
「とてもファッションの仕事している人間とは思えないセンスだったよ。3人とも本当仲良いよね。」
「ここまでくると少し怖いけどね。」
真心との時間はいつもゆっくり流れる感じがする。真心の声のトーンとか、雰囲気がそうさせるのかもしれない。みんなで笑いあって少しうるさくしてしまうのも自分は好きだが、この静かな感じも好きだ。真心と自分にしか作れない空間で、他の人とはこうはならない。真心が自分の足の間にちょこんと座る。
「左手、さわれない。」
「折れてるからね。」
「早く治してね。」
「わかったよ。頑張るね。」
真心は手が好きらしい。手を繋いだり、手のひらに文字を書いたり。自分の近くにいる時は常に触ってくる。大きくて、暖かくて、包まれている感じで安心するらしい。こうして話している最中もずっと触っている。そうしているうちに再び真心はウトウトし始めた・
「眠たくなってきた?今日は午後から病院に行かなきゃいけないからあまり無理しないでね。」
「ギリギリまでこうしてる。もし眠ちゃっても時間までは一緒にいて。」
「わかった。じゃあ後1時間だけね。」
そういうと真心は体も向きを変えて自分の肩に顔をのせた。優しい香りが鼻腔をくすぐる。落ち着く。
1時間はすぐにたってしまい、いつの間にか真心は寝てしまっていた。そのまま真心を布団に優しく寝かせた。自室に戻って、服を着替えた。