「じゃあ……何でそんなことをしようとした?」

「君の実力……いやキレた姿を一度見たくなってね。
 思った通り……弱々しく可憐な君もそそられるけど、その若頭としての鋭い目付きもそそられるね?
 なるほど、それが君の2つの顔か。
 今回は、これでやめるとしよう。お楽しみを奪われたのは、残念だが後に取っておくのも悪くはない。
 また楽しませてもらうとするよ……鬼龍院葵」

 大河内幸也は、クスッと不敵の笑みをこぼすと鬼龍院さんの肩をポンッと軽く叩き、出て行ってしまった。
 私は、驚いてしまった。じゃあ……わざと?
どうやら本質を見たくてわざと鬼龍院さんを怒らしただけだった。

 心臓は、まだバクバクと高鳴っていた。
恐怖と緊張が今さら来た。
 身体は、ガタガタと震えていた。怖かった……。

 鬼龍院さんは、振り返るとすぐに私をギュッと抱き締めてきた。
 震えていたから慰めてくれるのかと思ったら
「……怖かった」と言ってきた。

えっ……?
 見ると半べそになりながら私よりガタガタと震えていた。
 さっきの雰囲気とまったく違いか弱い鬼龍院さんだった。
涙目になりながら必死に口を開こうとしてきた。

「どうしよう。あの人に……。
 キスやあちらこちらを触られちゃったよ。
僕……初めてだったのに……怖くて何も出来なかった」

 はぁっ?何ですって……?
よく見るとはだけた服に見える首筋にはキスマークが。
 ズボンのベルトも外されており、何が行われていたか一目瞭然だった。
 あの男……また同じことをしてきたら絶対に強烈なビンタをしてやるわ!!

 私は、大河内幸也に凄い怒りを覚えるがグッと我慢して鬼龍院さんを抱き締めた。
 そして背中を優しくポンポンと叩いた。

「大丈夫ですよ。あなたは、私が守りますから」

「……うん」

 本当だったらここは、ヒーローがヒロインを助けて甘い台詞を言うところだ。
 これだと、どっちがヒーローでヒロインなのか分からない。
 まぁ……でも鬼龍院さんが無事だったのなら、それでもいいかなと思った。
これでとりあえず一件落着した。

 すると大河内組が撤退したので重勝さん達もVIPルームに駆けつけてくれた。
 無事に私達は、助けて帰ることが出来た。

 しかし屋敷に戻ると話を聞き付けた、残りの部下達が鬼龍院さんの帰りを心配そうに待っていてくれた。
 喜んでいたのはいいが……。