「連れて来い。どんな手を使ってもだ。
たっぷりと味合わせてやる……」

……この男の企みは分からない。
 それを知らない私は、仕事が終わると鬼龍院さんのもとに急いだ。早く会いたいがために……。

 鬼龍院さんの自宅は、相変わらず怖い人達がたくさん集まっていた。
 ビクビクしながら用件を伝えるとすでに鬼龍院さんは、帰宅していたらしく重勝さんが中を通してくれた。
 これで自宅を訪問するのは、2回目だ。
障子の戸を開けてもらうと鬼龍院さんは、着物姿で飼い猫を抱っこしながら座っていた。

 そして私に気づくなり猫を抱っこしたまま慌てたように立ち上げた。
 だがすぐさま背中を向けてしまう。
えっ……鬼龍院さん?何故背中を向けるの?

「す、すまない。学校の文化祭……むちゃくちゃにして。
本当は、そんなつもりなかったんだ。
 でも、アイツらが壊したり上紗さんに手を出そうとしたからその……ごめんなさい」

 猫をギュッと抱き締めて丸くなりながら謝る鬼龍院さんだった。
 その姿は、背中からでも分かるぐらいにしょんぼりとしていた。小刻みに震えているし……。
 これがあの時に不良達を一瞬で倒し、黒いオーラを漂わしていたと誰が思うのだろうか?

 どう見ても叱られてしょんぼりとしている小動物みたいだ。
 可愛いと言ったら……余計に落ち込むかしら。
私は、どうにかして励まそうとドキドキしながらも背中を寄り添うように抱き締めた。
 鬼龍院さんは、驚いて手を緩めてしまう。
抱き締められた猫は、ぴょんと飛び降りてしまった。

「か、上紗さん!?」

「大丈夫です。私は、怒っていませんから
 理事長と話をしてクビにならずに済みました。
あなたの人柄のお陰で。だから気にしないで下さい」

「本当に……?」

 驚きながらも不安そうに私を見てくる鬼龍院さんに私は、ニコッて微笑んでみせた。
 すると感極まった鬼龍院さんは、ギュッと私を抱き締めてきた。キャアッ!?

 心臓がドキドキと大きく高鳴った。
ギュッと強く抱き締める鬼龍院さんは、未だに小刻みに震えていた。
 もしかして嫌われると思ったのかしら?
チラッと顔を覗いてみると、やはりポロポロと涙を流していた。

 どうも鬼龍院さんは、涙もろい。
しかも温かい人だ。理事長が言っていたけど……私もです。
 私も鬼龍院さんの笑顔と涙には弱い。
ギュッと胸が締め付けられそうになるし、守りたくなる。
 それは、何よりこの人の魅力なのだろう。

「泣かないで下さい」