鬼龍院さんは……人格者か。
あの人は、周りを動かすだけではなない。
 信頼されるだけの魅力を持っている人なのかもしれない。
その魅力に惹かれているのは、私も同じだけど……。

「でもクビにならなくて良かったわね?
 しばらくは、やりにくいかもしれないけど、その内に収まるだろうから気にせずに過ごせばいいんじゃない?」

「あ、それなんだけど……坂下君。
 クラスの皆に私のこと言ってくれてありがとう。
お陰で変な誤解もされずに済んだわ」

 そうだった……うっかり忘れるところだった。
坂下君にきちんとお礼を言わないと……。

「……別に。当たり前のことを言っただけだし……」

「それでも助かったのは事実だわ。本当にありがとう……」

 坂下君みたいに私のことを信じてくれるのは、本当にありがたいことだ。
 彼が居なかったら私は、まともに打ち解けていたか分からない。
 すると恥ずかしくなったのか坂下君は、漫画とカバンを持つと保健室から出て行ってしまった。
 相変わらず素直ではないわね……まったく。
 呆れてドアを見ていると奈緒は、それを見てクスクスと笑っていた。

「素直ではないところも可愛いじゃない。
 で、どうするの?クビは免れた訳だし理事長からも許可が出たのなら問題なく付き合えるじゃない」

「う、うん。連絡が取れないから、また今日でも会いに行ってみるつもり」

「そう。それなら良かったわ」

 私は、チラッと窓を見ると鬼龍院さんのことを考えていた。
 今頃どうしているのかしら?鬼龍院さん……。
 しかし、さらに大変な事態になることは、この時の私は、考えてもみなかった。
 それは、1人の男性が引き起こしたことだった。

 何処かのタワーマンションで1人の男性がソファーに座っていた。
 足を組みながら鬼龍院さんの写真を見てニヤリと笑っていた。

「鬼龍院葵か……なかなか面白い男じゃないか。
ぜひ彼の泣き顔を見たいものだな」

 そう言いながら部下の男に写真を渡した。
部下の男は、写真を背広のポケットにしまう。