私は、思わず「はい」と返してしまった。
二度目はないと思っていた。
向こうも断ると思っていたし、私も今日だけだと決めていた。
なのに……何だろうか。
断る雰囲気すら出させないオーラがあった。
怖いからとかではなく、圧倒的なオーラとさっきの表情が気になってしまった。
「では……おやすみ」
鬼龍院さんは、そう言うと迎えに来た高級車に乗り込み行ってしまった。
周りには、たくさんの護衛みたいな怖い顔をしたヤクザに囲まれていた……。
ヤクザだし怖い。確かに怖いはずなのに……。
あの迫力のあるオーラに立ち振舞い。そしてクールでミステリアス。
なのに恐いとはまた違った不思議な雰囲気を持っていた。
言葉に上手く表せないほどだった。
これが日本でも大きいと言われている鬼龍院組の若頭なのだろうか?
私は、立ち去る黒い高級車を遠くからただ眺めていた。
そして次の日。変わらず高校の教師として授業を送っていた。
昨日と比べたら平凡な授業だ。
あれは、何だったのだろう?
若頭なんだし……それなりに怖いことも平気でやっているだろう。
それこそ警察のご厄介になっていたら大変な事だ。
二度目はない……断ろうと思うのだが頭の中は、どうしても彼の赤い顔が浮かんでしまう。
あれ……耳まで真っ赤だったわね。
一瞬だったから気のせいかもしれないのに忘れられないでいた。
それにちょっと……その表情にキュンとなった。
もしかして……あれが素とか?いやいや……まさか。
「先生?椎名先生ってば!!
さっきから黒板に何を書いているのですか?」
えっ?何って……。
ハッとして黒板を見てみると赤とか結婚とかいろんな単語が書いてあった。
どうやら頭の中で考えていたことが、そのまま字に出てしまったようだった。
「キャアッ……ごめんなさい。今、消すから」
私は、慌てて黒板消しで字を消した。
クラスの生徒達は、それを見てクスクスと笑っていた。
は、恥ずかしい……。
いくらあの人のことが頭から離れないからって、まさか黒板に書くなんて……。