いや。あの時、確かに悲しそうな表情をしていた。
それに落ち込んでいるようにも見えた……。
すると重勝さんは、話を続けてきた。
「仕事は、割り切ってやって頂けるのでその辺は、問題はないのですが……。
普段の若は、純粋で繊細な性格をしていまして、
落ち込みが酷くて……食事もろくに食べていません。
あの時も……泣いていて我々も大変心配していたぐらいでして」
私は、それを聞いて驚いた。
泣きそうだと思っていたけど……本当に泣いていたのね!?
しかも食事もろくに食べないほど落ち込むなんて……。
「これだけは、勘違いしないでほしくて報告にあがりました。
連絡が遅れているのも怯えられて断られるのが怖いからで、けして疚しい気持ちがあった訳ではありません。
我々は、ヤクザですが薬に手を染めるような馬鹿な真似はしません。
あくまでも仕来たりを守るヤクザです!」
えっ……!?
じゃあ薬には、手を出していないの?
「それは、本当ですか!?」
私は、大声で立ち上がってしまう。
気づくと周りの目線に気付き恥ずかしくなった。
慌てて座ると重勝さんも驚いていた。
うっ……引かれている。
「あの……じゃあ犯人が言っていたことは?」
「あぁ……あれは、何者かが我々の組を名乗って取引をしていたようです。
そのような話は、以前からいくつか耳にしていて……我々もその経緯を探っている最中でした。
若の役目は、あくまでも極道界のトップを守り、組だけではなく国の秩序と名誉を守ることです。
そのためにも、ご理解を頂きたくて勝手に私が来ただけです」
そう話す重勝さんの目は、真剣だった。
本当に鬼龍院さんを心配しているのが分かった。
そうだったの……。
だから何?とは思わなかった。
むしろ鬼龍院さんは、薬とかそういうのには、関係ないと分かりホッとしている自分が居た。
鬼龍院さんは、鬼龍院さんなんだと……。
「全てを受け入れろとは申しません。
ただもう一度考え直して頂けないでしょうか?
良かったら……一目でいいので鬼龍院さんに顔を見せて頂けたら助かります」
重勝さんが私にそう言ってきた。
その言葉にドキッと心臓が高鳴った。
鬼龍院さんのところに顔を見せに……。