「ちょっと皆……私は……」

「あーでも無理があるか。だって椎名先生……ババアだし」

な、何ですって!?
 坂下君の言葉に思わず持っていたチョークをまた折ってしまった。
 あんたが言ったくせにババアって何よ!?ババアって……。

「坂下君。私まだ24なんだけど?」

「DKの俺からしたら24なんてババアなんだよ。
自覚しろよ……おばさん」

 何か切れる音がした。
机をバンッと叩くと坂下君を睨み付けた。 

「もう一回言ってみなさい!?
また言ったら廊下に立たせるわよ!」

「はぁ?廊下に立たせたら問題になるだろ?
体罰に訴えられたいの?椎名先……いや椎名おばちゃん」

「徹底的に話し合おうじゃないの!!」

 またいつもの坂下君との口喧嘩になってしまった。
授業は、それで潰れるし後で教頭先生にこっぴどく叱られていた。
 だが、そのせいか鬼龍院さんのことを深く考えずに済んだ。

 もしかして……落ち込んでいる私に元気付けようとしてくれたのかしら?坂下君……。
 いや。まさかね……。でも、お陰で鬼龍院さんのことを一瞬でも忘れることが出来た。
 そう考えると後でお礼を言わないといけないわね。

「椎名先生。今の話聞いていましたか?」

「は、はい。もちろんです」

教頭先生の説教は、相変わらず長い。
 結局、散々説教されてから解放された。
やっとの思いで学校を後にする。
 ハァッ……散々だったわ。教頭の話って何でこんなに長いのかしら?

 ぶつぶつと文句を言いながらため息を吐いた。
駅から降りて自宅に向かう。
 すると自宅付近で1人の中年男性が私の前に現れた。
黒いスーツを着ており頬に傷痕がある。
 だが怖いというより落ち着いた雰囲気の人だった。
年は、50代前半ぐらいだろうか?