信じることすら出来ない……。
まだ会って日が浅いからなおさらだ。
そう思うと余計に気持ちが沈んだ……。
「そんなことないって……どうして言えるんだよ?」
「……それは……」
私は、何も言えなくなってしまう。
鬼龍院さんの何を信じたらいいのだろうか?
極道界の天使……そう言われている彼だが私は、彼のことは、何も知らない。教えてもらってもいない。
「安易な信用は危険だって……普通教師が俺らに教えることだぜ?
信憑性のない信頼なんてクソと同じだ。
やめておけよ……あんな危ない奴」
「………」
坂下君の言葉に胸が刺さった。
“安易な信用は危険”
確かに本来なら教師である私が生徒に伝える台詞だ。
危ないことなら無理やりでも辞めさせないといけない。教師なら当然のこと。
私は、言われるだけで何も言い返せない。
どこか信用していたのかもしれない。
鬼龍院さんは、大丈夫だと。信頼出来ると……。
胸がギュッと締め付けられそうだった。苦しい。
それからしばらくしても鬼龍院さんからの電話は来なかった。
もちろん私も怖くてメールや電話も出来ないでいた。
このまま距離を置いた方がいいのかもしれない。
お見合いも無かったことにしたらいい。
そうしたら丸く収まる。
なのに……頭の中は、罪悪感や不安ばかり。
鬼龍院さんのことでいっぱいだった。
あの恐怖を忘れた訳ではない。
一歩間違えたら拳銃が当たり死んでいた。
考えただけでもゾッとする。
鬼龍院さんも冷酷な表情をしていた……。
そう思うのに思い出すのは、傷ついた表情だった。
今にも泣きそうだった……。
「先生。椎名先生ってば!!
さっきから何を書いているのですか?」
えっ……?
ハッと前を見ると黒板に大胆にも泣きそうだった……とか書いていた。えぇっ!?
何を書いているのよ……私ったら!!