私は、無理やり2人を走らせてその場から逃げた。
あんな騒ぎを起こした後に警備員に捕まる訳にはいかないわ。
 必死に鬼龍院さんの腕を引っ張り私達は、1階の外まで逃げた。
 ハァハァと息を整えながら周りを確認するが、どうやら逃げ切れたようだった。
 良かった……ここなら多分大丈夫だろう。

「ちょっ……何で俺まで?」

「仕方がないでしょ!?坂下君が捕まったら学校に通報されるじゃない。
そうなったら停学どころか退学よ!?」

 息を切らしている坂下君に私は怒った。
まったく……全然分かってない。
 だから喧嘩をするなと何度も言っているのに。

「知らねぇーよ。大体先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは、向こうだし。それよりもさっきのアレはなんだ!?
 弱々しいふりして、あれだとまんまヤクザじゃねぇーかよ!?」

 坂下君は、鬼龍院さんに怒鳴っていた。
確かに……アレは、私も驚いた。
 あんな穏和で天使みたいな表情する鬼龍院さんだとは思えないほどに迫力と怖さがあった。
 アレは、間違いなくヤクザの若頭だった……。
 しかし鬼龍院さんは、坂下君の言葉に何故だかショックを受けていた。
 それどころか目をうるうるさせていた。

「えっ……えぇっ!?
ぼ、僕は、その……上紗さんを守りたくて……それで」

あれ……?
 さっきまでの怖くてクールな印象と違い今は、オロオロとしたいつもの鬼龍院さんに戻っていた。
 いや……でも確かにさっき……。
私と坂下君は、今の鬼龍院さんの姿に唖然とした。
 どっちが本当の彼なのだろうか?

「えっ……でもさっき、アイツらに……。
お前……それ、わざとだろ!?」

「わざとだなんて……そんな……」

「嘘をつくんじゃねぇーよ!!
あんなおっかない面しやがってよ?本性を出しやがれ」

「えっ……えぇっ!?」

 鬼龍院さんの態度にキレる坂下君だが、そのキレ方にビクビクしていた。
 あれ……?これだと真逆だ。
鬼龍院さんの方が、か弱く見える……。

「いい加減に正体を見せろよ!」