坂下君は、鬼龍院さんの腕を振り払った。
しかしナンパ男の1人が今度は、鬼龍院さん目掛けて殴ろうとしてきた。

「誰だ、てめぇー!?引っ込んでろ」

 ちょっと……鬼龍院さんまで巻き込まないでよ!?
あ、危ない!!
 しかし鬼龍院さんは、表情を変えずにサッと避けるとそのナンパ男の足で払い転ばした。
 ほんの一瞬のことだった。えぇっ……!?
こ、転ばした……鬼龍院さんが!!

 転ばされたナンパ男も驚いていた。
しかし逆に余計に怒らしてしまったようだった。
 ギロッとに睨み付けていた。

「ぐっ……何しやがる!?ぐあっ!!」

 すると鬼龍院さんは、起き上がろうとするナンパ男の背中を思いっきり踏みつけた。えっ……えぇっ!?
 穏和な鬼龍院さんには、考えられない行動に私は、唖然とする。
 しかし鬼龍院さんは止めない。

「ここは、ショッピングモールだ。
それに俺の仕切るシマでもある。許可を出していないのに勝手な揉め事は、やめてもらおうか?」

「ふざけるな!!ぐっ……」

「……もう一度言う。ここは、俺の仕切るシマだ。
勝手な揉め事はするな」

 そう言ってナンパ男を容赦なく踏みつける鬼龍院さんの雰囲気は、さっきの天使みたいな雰囲気ではない。
 むしろ冷酷でクールなオーラを漂わしていた。
ギロッと他のナンパ男を睨み付けるところなんて、まるで……ヤクザそのものだった。

 ナンパ男は、鬼龍院さんにビビり逃げるように去っていた。
 周りのその騒動にざわついていた。
私は、まだ唖然としたまま硬直していた。
 すると騒ぎに聞き付けた警備員さんが慌ててこちらに来た。

 あ、ヤバい……このままだと。
私は、慌てて鬼龍院さんの腕を掴まえた。
 とにかく2人を連れて逃げなくちゃあ……。
私は、咄嗟に逃げる判断をする。

「鬼龍院さん逃げるわよ!坂下君も……」

「えっ……?」