「あの本に書いてあったんだ。手作り弁当でアピールするといいって……。
 でも僕、料理とか作ったことがないから、せめて卵焼きぐらい作ろうと思って。
 朝早くから料理長に習って作ってみたのだけど……」

 失敗したらしく、しゅんと落ち込みながら説明してくれた。
……なんですか?その可愛らしい理由は?
 手作り弁当でアピールだなんて本来なら私がやらないといけないことだ。
 それを鬼龍院さんは、進んでやったというのか?
しかもちょっと失敗。

 いや、これ彼女として反対の立場だったら確実に萌えポイントだろう。
 料理上手な彼女もいいけど早起きして苦手な料理にチャレンジ。
 しかも一生懸命作って失敗しちゃったなんて、守ってあげたくなる女性キャラNo.1だろう。

 鬼龍院さんは、男だが女として負けているよう気分だ。
いや、それよりも……天使か!!
 私は、思わずそうツッコミそうになったがグッと我慢する。
 本人が気にしていたら悪いし。

「だ、大丈夫ですよ。私も料理とか全然ダメで、それに卵焼きだなんて……美味しそう。
 一口食べてみようかなぁ……いただきまーす」

 誤魔化すように私は、卵焼きを口に運んだ。
モグモグ……ちょっと殻が入ってはいるが甘い。
うん。思った以上に美味しい。

「美味しいです……私好みかも……」

 そうボソッと呟くと鬼龍院さんは、ジッと私を見ていたが、ふわっと柔らかい表情で笑った。

「本当……?嬉しい……」

 その笑顔は、天使かと思わせるような可憐な笑い方だった。
 グサッて恋のキューピッドが、また私の心臓を打ち抜いてきた。
 ドキドキと心臓が速くなり顔が……身体から火が出たように熱くなってくる。

「あ、あの……鬼龍院さんってオバケとか苦手なんですね?」

 私は、バレないように必死に話しかけた。
そうではないと気持ちがバレそうだったから。
 すると鬼龍院さんは、ピタッと固まった。

「こ、怖くなんかありませんよ……」

 鬼龍院さん。明らかに動揺してますよ?
声が裏返ってます。