「ただいま~きゅう……じゃなかった。葵さん」

「お仕事お疲れさま。えっと……上紗」

お互いに慣れない呼び方に照れてしまった。
 結婚したから私は、鬼龍院さんではなく葵さんと呼び方に変えたのだが未だに馴染めない。
 えへへ……とお互いに頬を染めながら微笑んでいると
「上紗ちゃん!?」と呼ぶ声が聞こえてきた。

 ビクッと驚いて振り返るとまさかの黒江お兄ちゃんに目撃されてしまった。
 う、嘘っ……気づかれちゃう!!

「黒江……お兄ちゃん!!」

「えっと……この人は、旦那さん?」

 ど、どうしよう。2人にどう説明したらいいのだろうか。
 上手い説明の仕方が思い浮かばずに戸惑ってしまう。
 すると鬼龍院さんは、ギュッとそのまま私を抱き締めてきた。えっ?

「あの人は……知り合い?」

「あ、えっと……今日から赴任してきた黒江先生です。
 実は、昔隣に住んでいた家のお兄ちゃんでして、幼馴染みなんです」

 私は、詳しく説明した。
誤解をされたくないので正直に話した。
 鬼龍院さんは、それを聞くと私を抱き締めたままでニコッと微笑んでみせた。
 いつもの倍の天使の笑顔で……。

「そうなんですか。はじめまして鬼龍院葵と言います。
 妻の上紗がお世話になったようで、ありがとうございます。
 これからもよろしくお願いしますね」

 キラキラした表情で黒江お兄ちゃんに自己紹介をしてきた。
 今、妻って……言ってくれた?
思わない言葉に胸がドキドキと高鳴ってしまった。

「あ、こ……こちらこそよろしくお願いします。
黒江真一です……」

 天使の笑顔に黒江お兄ちゃんも頬を赤く染めていた。
無理もない……鬼龍院さんの笑顔は、最強だ。
 同姓でもドキドキしてしまうだろう。

「では僕達は、これで……」