冬が寒いのは。
恋人同士が身体的に近づくための、
神様の悪戯染みた優しさかもしれない。

だって人は、季節に関係なく、
他者を求めるのだから。



彼女は冬という季節が極端に苦手であった。
彼女を解く方程式があるとすれば、答えには夏も含まれるのだろう、と彼は今までの経験上考えていた。
今日は彼が彼女を呼んだ。といっても、彼女が彼を家にあげることのほうが少ない。警戒でもなく彼のほうがあまりあがらないようにしている。

「寒いっ、です」

はたから見たらそれほどまでしなくてもいいだろうというほど、ガタガタと震えながら彼女は彼の入れた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを両手を温めるようにしてちびちびと飲んでいた。自分一人ならばつけることを躊躇うエアコンも、彼女が居るなら全開になる。それでも彼女が来たからと今しがた動き始めたばかりでは温まるまで待つほかない。
仕方ないといわんばかりに彼は毛布を取り出して彼女にかけた。

「花羽、寒がりすぎ」
「だって」

彼女はむっと眉を逆さハの字に吊り上げて、ぷうと頬を膨らました。

「雪ですよ!? この地域でさえも雪を見るんですよ!」
「花羽も高校生ならもっと喜ばない? “きゃー、朋樹、雪ですよ雪!”……とか」

彼はあくまで彼女のふりをしてそういってのけた。
真似した彼は彼女よりも若々しくて、彼女が少しだけ嫉妬してしまうほど、可愛らしかった。
彼女の口が少しとがったのをみて彼は付け足すように言った。

「ほら、あれじゃん。“若い”んだし?」
「朋樹だって充分若いですよ!」
「俺、言っとくけど三つ上ね、これでも」

彼は肩に手を当てて、腕なんて回し始めた。そして拗ねた口調で、

「すぐ疲れるし、重いもの持つときに掛け声かけなきゃ危ないんですー」

なんて彼女をちらりと見るのだ。

「わ、たし……だってすぐ疲れるし、……って!」
「何?」
「朋樹だって……って、何で上着なんか」


立ち上がったから何をするのかと思えば、ハンガーに引っ掛けていたフード付の上着を羽織り、ニットの帽子を被る。
朋樹さん、もしやあなた……という顔をしている。
視線に気づいた彼が、屈託のない笑みを浮かべ手を差し出した。

「外いこう、ほら」
「いやっ、です!」
「なら部屋で何するの?」
「じっとしてます」
「外で動けばすぐに温まるよ」
「やです、部屋にいます」
「……じゃあ部屋で何かする?」

にたり、と彼が笑った気がした。
彼女は一瞬身を引きながら。

「な、何もしないですよ! 朋樹さんと居られたらいいです。……傍にいて、暖めてください」

彼女は少しだけ気まずそうに、目を逸らした。

「花羽、効率よく身体を動かすのがいいと思うよ」
「ち、ちがう、ですよ! 何勘違いして」
「花羽こそ何勘違いしてるの? もしかしてぇ……」
「きゃー! それ以上言ったら殴るですよ! もうっ!」



【寒いから暖めてだなんて、
勘違いさせたいの?】

(だってねぇ、花羽ちゃん、そんなこといわれたら、意識してしまうではないですか)
(ぎゃー!! 朋樹さん、近い近いですっ)

10'02'28
再:11'07'18