「朋樹ー」
「何?」
「紅茶に入れるのって、シナモンですよね」
「うん、棚にあるでしょー」
「あるんだけど……」

彼女は入れたての紅茶と、いまいちパッとしない表情で戻ってきた。
疑問点はどうやら、シナモンらしい。

「シナモンでよいのですよ?」
「そう、なんだけど……シナモンって、薄荷のこと?」

一瞬思考が止まって、カップを手に持ったまま彼女の顔を見た。
ああ、彼女はいたって真面目だ。

「シナモンって外国語でしょう?」
「外国語かカタカナ語かは調べるといいよ、受験生」
「なら日本語はなにだったかなぁって」
「……ほんとに心当たりがない?」
「え?」
「さっき言ってた薄荷はさ。そこらへんにあふれてるよ? この前、花羽もうれしそうに言ってたじゃない」

彼女は、はて? と思い返しているようだった。
正確に言えば、薄荷とは言っていないので思いあたらないのも無理はないだろう。

「ん?」
「花羽はこの前、ミントの葉っぱを貰って喜んでいたでしょう?」
「あーあ。そんなこともあったかもしれない、けどそれがどうして薄荷に繋がるの?」

シナモンは? と彼女は聞き返してきた。
彼女の入れてくれた紅茶を一口飲んで、それから答えた。

「ミントと薄荷は同じものなのですよ、花羽ちゃん」
「え!」
「そして一番の問題、シナモンは……ほらよく飴にあるじゃん、ニッキ飴って……ニッキの事だよ」

「…えー」

彼女は少しむくれた。さも彼の方が嘘をついているような、疑いっぷりだ。

「なら、紅茶にミントを入れて飲むといいよ、花羽だけそうして」
「なっ、意地悪!」
「ミントも入れないわけじゃないから、試してみるのもありなんじゃない?」
「なんですとっ!」

彼女は時々、抜けている。
けれど、そこが彼女のよいところであり、いとしいところなんです。


【その不完全さゆえにきみが愛おしい】


「なら、どうしてシナモンはニッキでミントは薄荷なの? なんで?」
「……」
「教えて、朋樹サンッ!」

しつこいので、知らん振りする事にしました。

08'05'26
再:11'07'18