「……むしろ着替えてくれた方が……」


 え……?


「そうじゃないと……」


「太鳳くん?」


「……もたなくなる……から」


「……?」


「今、この家にいるのは俺と彩音だけ」


 そういえば。

 おばさんやおじさんは仕事だからともかく。
 南風や雅陽もいない感じがしていた。


 そんな感じはしていたけれど。
 太鳳くんの口から改めて聞くと……。

 どっ……どうしようっ。
 急に緊張……意識してきて……。


「それなのに……
 ……そんな……姿を……見せられると……」


 ……?

 そんな姿……?


「……壊れてしまいそうになる」


 何が……?


「……理性」


 え……。


「彩音、
 今の彩音の状態、知ってる?」


 状態……?


「……かなりの色気を放っているから」


 色気って。

 一体どんなことになっているのっ?


「だから着替えてほしい。
 そうじゃないと……
 ……今にも彩音のことを……」


 そう言った太鳳くんは私から視線を逸らした。


 太鳳くんの顔は。
 少し赤くなっている。

 表情は。
 いつもの温和な感じではなく。
 余裕がなさそうな感じに見える。

 口元に右手を当てていて。
 困っているようにも見える。



 太鳳くんがそんな感じになってしまうなんて。
 今の私はどんな姿になっているのだろう。


「着替えは脱衣所でしてくれればいいから」


 目を逸らしたままの太鳳くん。

 話し方が少しだけそわそわしているように聞こえる。


「あっ……ありがとう、太鳳くん。
 お言葉に甘えて借りるね」


 そんな太鳳くんに動揺しながら。
 上下の着替えを持って脱衣所へ向かった。