口づけを交わした後にどうしてこんな会話を繰り広げないとならないのか。それより本当に自分は凰理とキスをしてしまったのか。

 凰理は紫音の言葉に虚を衝かれた顔になり、紫音は自分の失言に気づいた。

 あえて初めてとか告げる必要はなかったのでは……。

 ファーストキスにものすごく夢を見ていたわけでもない。

 同級生に比べ経験がなさすぎるのを悩んだりはしたが、それでも初めてのキスは好きな人と、と思うのは当然だ。

 どうせ凰理にとってはキスなどたいしたことない。キスぐらいで、と鼻で笑われるのを予想し、紫音は早口で捲し立てる。

「い、今のはナシ。お互い忘れよう。少なくとも私もなかったことにするから」

 きっと熱のせいだ。体が熱いのも思考が正常じゃないのも。全部――。

「忘れないし、忘れさせない」

 どういうわけか、打って変わって低く決意の滲んだ凰理の声が耳に届く。

 意識を向けると、先ほど凰理の口に押し当て掴まれたままでいる手を、今度は彼から指を絡められ強く握られる。

「もう二度と、なかったことにさせない」

 掴まった紫音の手は、逆に凰理自身の意思によって彼の口元に持っていかれた。

 紫音は抵抗するどころか硬直し、凰理の動きに息を呑んだ。

「俺が昔からずっと欲しいのは、紫音だけなんだ」

 凰理はしっかりと紫音を見据えながら彼女の手の甲に口づける。その仕草があまりにも様になっていて目を奪われる。

 心臓が激しく打ちつけ、鼓動が速い。頭がくらくらして目眩を起こしそうだ。

 凰理からゆるやかに顔を近づけられるが、紫音は金縛りにあったように動けない。

 お互いの唇が触れ合う瞬間、凰理は紫音の異変に気づいた。