渋々、紫音は利都にメッセージを送ることにした。事務職員である利都は今日も普通に出勤している。

 すぐに携帯を確認できる状態ではないかもしれないし、万が一メッセージを読んで、仕事中にもかかわらず余計な心配をかけても申し訳ない。

 働かない頭を懸命に動かし、紫音は極力軽い調子で文章を打ち込んだ。いくつかの欲しいものをリストアップし、仕事帰りにドアにかけておいてほしい旨をまとめる。

 送信ボタンを押して、スマートホンを手放す。さっきから世界が揺れている気がするのは熱のせいなのか。

 紫音はぎゅっと目を瞑って思考を遮る。

 眠らなくてもいいから、とにかくなにも考えずに横になっておこう。

 吐く息さえ熱い。紫音は大きく息を吸って頭の中を真っ白にした。

『ぼく、勇者様みたいに強い男になる!』

『やっぱり選ばれた勇者様だ。さすがです』

 訪れた町で村人たちに囲まれたシオン一行は尊敬の眼差しと感謝の言葉を存分に浴びせられていた。

 仲間たちが笑顔でいる一方で、シオンはどこか浮かない表情になる。

 本当は勇者として選ばれたのは弟で、シオンは身代わりだ。剣の腕を必死に磨いて実力をつけても、その事実はどうしようもない。

 性別も偽り、仲間さえ騙している。

『今度の勇者は女か』

 ただひとり、皮肉なことに宿敵魔王だけは自分の正体を見抜いた。彼だけはシオン自身を勇者として扱ってくれる。

 ああ、そうか。私――。