紫音は自室でため息をついてレポート課題に取り組む。大学の夏季休暇中に開講される集中講義で事前に出されたものだ。

 明日から講義が始まるので、今日中に仕上げなくてはならない。

 課題内容を見たときは、事前ということも考慮されてか、そこまで難しいものではなく、すぐに終わると思っていたのだが予想が外れた。

 特段、難しいわけでもない。いつもの紫音ならとっくに終わらせているが、今は違うことが頭の中をチラチラ過ぎり、集中できないのが原因だ。

 時間だけが過ぎる焦りで、紫音はキーボードから一度手を離した。思い切って椅子の背もたれに体を預ける。

 先日、凰理と偶然にもデートという体験をしてマンションに戻ってきた。

 魔王相手にデートとはなんとも妙ではあるが、そこで紫音にとってはさらに衝撃的な出来事があった。

 マンションのエントランスで利都と女性が一緒にいるのを見かけたのだが、偶然にも彼女の名前は河野詩音と、紫音と同じ名前だった。

 問題なのはその後、そこへやってきた凰理との関係だ。

『……どうしてここに?』

 訝しげに尋ねる凰理に、詩音は笑顔で返す。

『仕事の都合でね。ちゃんと先生やってるの?』

『まぁ、それなりに』

 ぶっきらぼうに答える凰理に詩音は気を悪くするわけでもなく、むしろ懐かしそうに微笑んだ。

『見てみたいな。凰理の講義してるとこ。大学生にまぎれ込もうかな』

『やめろよ』

 すげなく返す凰理だが、嫌悪感はない。気を許しているとでもいうのか、ふたりのやりとりに紫音の心は落ち着かない。

 ひとりだけ蚊帳の外だからなのか。そもそも詩音とは初対面だ。無関係の紫音がこれ以上ここに留まる必要はない。