「ああ、ちょっと出かけてたんだ。もう戻ってきて、今駐車場にいる……ああ」

 さっさと電話を切った凰理に紫音は自分の予想をぶつける。

「もしかして電話の相手って利都?」

「ああ。今、どこにいるんだって。帰ってきたところだって伝えたが」

 面倒臭そうな凰理に対し、紫音は弾かれたように車のドアを開けた。

「わ、私、先に行くね」

「あ、おい」

 引き留める凰理の声を無視して紫音はさっさと車を降りると住人専用通路を抜け、マンションのエントランス部分へ急ぐ。

 なにもうしろめたいことはないはずなのに、凰理と一緒にいたことを利都に限らず、誰かに知られるのはいけない気がした。

 なにより電話が鳴る直前の凰理の行動が紫音の心を乱している。胸が締めつけられるように痛むのは嫌悪感ではない。それが余計に紫音を苦しめる。

 そのときエントランスで、見慣れた人物が紫音の目に入る。続けて彼がひとりではなく誰かと話していると気づいた。利都と同年代の女性だ。

 ぱっと見て美人だと紫音は思った。背中まである長い髪のサイドを編み込み、肩にフリルのあしらわれた白のトップスと淡いピンク色のミモレ丈のフレアスカートの組み合わせは上品で可愛らしい印象を与える。

 もしかして利都の恋人かな?

「利都」

 心を弾ませながら声をかけると利都と共に女性も紫音に視線を向けた。程よくメイクが施されているが、気どらない雰囲気の優しそうな女性だった。