「紫音、倒れたんだから無理は禁物だよ。言うことをききなさい」

 優しくも有無を言わせない迫力があるのは、やはり前世からだ。紫音の反論を封じ込め、利都は仕事へと戻っていく。

 利都がいなくなり、重い沈黙が降りてくる。口火を切ったのは紫音の方だった。

「……なにを企んでいる?」

 強い眼差しを凰理にぶつけ、容姿には似合わない低い声で尋ねる。凰理はゆっくりと紫音のそばまで歩み寄ってきた。

「企む? 純粋に久々の再会を喜ぼうとは思わないのか?」

「思わない」

 からかい混じりの返答に紫音は即座に答えた。どうして喜ぶ必要があるのか、自分たちは――。

 そのとき凰理の手が紫音に伸びて来て長い黒髪に触れた。

「触らないで!」

 反射的に叫び、彼の手を払いのける。完全な拒絶にわずかに凰理の目が丸くなった。その彼の反応を見て、紫音の心はさらに揺れる。

「喜ぶわけない! 私はあなたを……」

 言いかけて口を噤み、そのタイミングで部屋のドアがノックされる。

「紫音、いる?」

 荷物を持ってきた実乃梨の声が聞こえ、紫音は素早くベッドから出た。手櫛で髪を整えながらパーテーションの間をすり抜け、ドアのところで待つ実乃梨の前に姿を現す。

 様子を心配する実乃梨の背を紫音はさっさと押して出て行った。

 なんで今さら私の人生に現れたの!? どうして思い出してしまったんだろう?

 胸が締めつけられるように痛むのはどうしてなのか。複雑に渦巻く感情はなにを訴えているのか自分にもわからない。紫音はひたすら歩を進めた。